遺言

遺言についてのFAQ(質問箇所をクリック)

A.遺言がない場合は、相続人間で遺産分割協議をしますが、協議がまとまらない場合、亡くなった人(被相続人)の遺産を、民法の規定に従って分けることになります(法定相続)
  例えば、Aさんが死亡し、妻であるBさん、長男であるCさん、長女であるDさんが相続人になった場合、Bさんは、妻として2分の1の法定相続割合で相続することになります。長男Cさん、長女Dさんは、Aさんの子ですので、子の法定相続割合である2分の1のさらに2分の1である4分の1の割合で相続することになります(法定相続分)

  遺産分割協議のためには、多くの資料(現在の戸籍、過去の戸籍、不動産登記簿、金融財産の把握)を集めたり、相続人の協力を求めることになりますが、その過程で争いが発生することもあります。お互いに譲り合って円満に解決したいものです。

  これらの手続が面倒であるとして相続人がそのまま放置すると、登記名義、預貯金名義は亡くなられた人の名義のままとなり、その後の相続が重なることより相続関係がますます複雑になり、空き家(2017年現在の全国の空き家は820戸)や利用されない土地(荒れた土地)利用されない預貯金が発生する原因になります(2017年現在の全国の空き家は820万戸です。(東日本大震災で復興が進まない原因のひとつに所有者が判明しない土地が多数存在することが挙げられています。)
  預貯金は、債権であるため、消滅時効の対象になることがあります。これらは、長期化すればするほど解決が困難になります

【コラムの目次】
1 遺言がない場合の例
2 相続争いの発生
3 相続対策をしない原因
4 公正証書遺言の例
5 2018年相続法改正(遺産分割での配偶者の保護)

遺言がない場合の例

  具体的な遺産分割協議(例えば、「自宅の土地建物は妻Bさん。預貯金のうち500万円は長男Cさんと長女Dさんで半分ずつ。残りは妻Bさん。」とするなどの協議)は、相続人間で話し合って決めます。遺産分割協議では、お互いが譲り合って相続人全員の合意を目指します(相続人間の合意ができれば法定相続の割合で分割しなくても構いません。)
   合意ができる場合でも、相続人が遠方にいる場合、国外にいる場合、疎遠になってしまっている場合は、戸籍謄本、改製原戸籍謄本(現在の戸籍より前の旧戸籍のこと)、住民票など必要書類を収集するだけでも大変です。協議成立時には、印鑑登録証明書と実印が必要になります。外国籍の相続人がいた場合、司法書士などの専門家に外国戸籍の資料の収集を依頼せざるを得ず、数十万円の費用を要するケースもあります。
  公正証書遺言の場合は、他の相続人の同意を経ないで相続手続を進めることができます(他の相続人に印鑑登録証明書を取得してもらうこともありません。)。他の相続人に負担をかけないだけでも、公正証書遺言にする価値があるのではないでしょうか。なお、自筆遺言証書でも検認手続に必要な書類の収集のために多くの労力と費用が必要になります。

相続争いの発生

  相続人間で遺産分割の話合いがつかない場合は、相続人の申立てによって、家庭裁判所の調停が開始されます(遺産分割調停)。遺産分割調停がまとまる場合(合意ができた場合)は、調停調書が作成されます。まとまらない場合は、家庭裁判所の裁判官による審判によって決着させます(遺産分割審判)。その場合、土地や建物の鑑定をしなければならないことがあります(土地家屋1棟だけでも数十万円必要となります。)。この場合の鑑定費用は、通常、遺産分割の申立てをした相続人が予納します。なお、遺産分割審判では、法律によって決着させますので、当事者間の「実質的な公平」がはかられないこともあります(例えば、「仕事を辞めて被相続人を一生懸命に介護したのに、何もしなかった他のきょうだいと同じ取り分しかもらえない。」など。)
  相続問題で争いが起こると、これまで仲の良かった家族が互いに争い合う「争族」となってしまいます。できれば避けたいものです。
  公正証書遺言があれば、他の相続人の同意の手続を必要とせず、比較的簡単に預貯金の払戻しや移転登記手続をすることができ、残された者に余分な負担をかけないで済みます。

相続対策をしない原因

  このように相続対策をすることはとても大切なことです。遺された家族、親族の幸せを願うのであれば、何らかの相続対策をすることは、先立つ者の当然の義務ともいえます。しかし、渡す側の親世代も、受け取る側の子世代も、元気なうちは「相続」で困っている人はいません。また、身近に相続問題で相談できる専門家も多くはいません。専門家に相談することを面倒だとお考えの方もおられます。
  日本では、毎年、130万人の方々がお亡くなりになっています。しかし、公正証書遺言の作成件数は10万件に過ぎません。自筆証書遺言の検認件数も1万件前後です。ほとんどの方が相続対策をしていないことになります。相続争いの典型である遺産分割調停は全国で年間1万3000件の事件がありますが、その75%が遺産総額5000万円以下です。相続争いのリスクは、富裕層だけにあるのではなく、一般庶民にこそ存在します。
  親族間紛争は、一般の民事紛争に比べて深刻になりがちです。裁判所の民事紛争でも、何らかの親族間紛争が背景にある事件が増加しています。
  勇気を出して専門家に相談なさることをお勧めします。
  遺言公正証書作成費用の最安値(遺産が100万円以下の場合で1人に全財産を相続させる場合)は1万8000円です。実際には、5万円から10万円くらいの間が多いようです(手数料は、財産額と分け方などによって変動します。)。手数料については、こちらをクリックしてください。

公正証書遺言の例

平成29年第300号
       遺 言 公 正 証 書
 本公証人は、遺言者・山川海夫の嘱託により、後記証人の立会いをもって次の遺言の趣旨の口述を筆記し、この証書を作成する。
(遺言・不動産)
第1条 遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を遺言者の長男・山川森一(昭和30年1月30日生)及び遺言者の二男・山川林二(昭和33年3月3日生)に、各々2分の1の共有持分割合で相続させる。
        記
【不動産の表示】
   土 地(駐車場)
   所 在 千葉市中央区中央一丁目
   地 番 ○○番○○
   地 目 ○○
   地 積 ○○.○○平方メートル
(遺言・その他の財産)
第2条 遺言者は、遺言者の有する下記の財産を、遺言者の長女・川田桜子(昭和35年5月5日生)に相続させる。ただし、川田桜子は、次条の債務を負担すること。
        記
  前条で記載の不動産を除く、相続開始時において有する動産、現金、預金、貯金、有価証券、家財家具、その他一切の財産
(債務)
第3条 遺言者は、遺言者の債務(入院費用、葬儀費用、未払租税公課、日常家事債務その他一切の債務)及びこの遺言の執行に要する費用を、前記・川田桜子に負担・承継させる。
(予備的遺言)
第4条 遺言者は、前記山川森一、前記山川林二又は前記川田桜子が遺言者に先立って死亡し、又は遺言者と同時に死亡したときは、各条文によりその者に相続させるとした財産を、その者の法定相続人に相続又は遺贈する。
(祭祀主催者)
第5条 遺言者は、遺言者の祭祀の主宰者として、前記・山川森一を指定し、同人に祭祀用財産の一切を承継・管理させる。
(執行者)
第6条 遺言者は、この遺言の執行者として、前記・山川森一を指定する。
2 遺言執行者は、遺言者の不動産、預貯金、有価証券その他の債権等遺言者名義の遺産のすべてについて、遺言執行者の名において名義変更、解約等の手続をし、また、貸金庫を開扉し、内容物の収受を行い、本遺言を執行するため必要な一切の権限を有するものとする。なお、この権限の行使に当たり、他の相続人の同意は不要である。
3 遺言執行者は、必要なとき、他の者に対してその任務の全部又は一部を行わせることができる。
(付言事項)
遺言するに当たって一言申し述べておきます。
相続が円満円滑に行われるようにと思い、遺言書を残しましたので、皆が協力して手続を行ってくれるようお願いいたします。
                                               以上
         本 旨 外 要 件
  住所 千葉市美浜区〇〇三丁目〇番〇―〇〇号
  職業 無職
  氏名   山川海夫
       昭和8年8月8日生
 遺言者は、印鑑登録証明書を提出して、人違いでないことを証明した。
  住所 千葉県習志野市〇〇二丁目〇番〇号
  職業 会社員
  氏名   鈴木太郎
       昭和15年5月5日生
  住所 千葉県佐倉市〇〇一丁目〇番〇号
  職業 パート従業員
  氏名   鈴木花子
       昭和20年2月2日生


2018年改正相続法案(遺産分割編)

〇 2018年相続法改正のポイント・その1
「遺産分割での配偶者の保護」
1 配偶者短期居住権
・ 簡単にいうと、夫が何の相続対策をせず、子どもたちが妻を事実上無視して遺産分割協議を進めて、「これにハンコだけ押してね」と求められた場合、いままでは、①ハンコを押さないという抵抗の手段しかありませんでした。今回は、これに加えて、ハンコを押したとしても、6か月だけは無償で居住していた不動産に住み続け、その間に転居先を探すことができるという制度ができました。
・ 配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合において、その居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべきときは、遺産分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間、居住建物の所有権を相続により取得した者に対し,居住建物について無償で使用する権利(配偶者短期居住権)を有する権利が創設されました。

2 配偶者長期居住権
・ 簡単に言うと、夫がOKと言ってくれていた場合、相続人がOKと言ってくれた場合、長期的に(生涯)住み続けられますよという当たり前の制度です。ただし、配偶者が死亡後、消滅するので連れ子の居住権はありません。家裁の審判で発生させる場合もあります。
ア  配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次のいずれかに掲げるときは、その居住建物の全部について無償で使用及び収益をする権利(配偶者居住権)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
(ア) 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
(イ) 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
(ウ) 被相続人と配偶者との間に、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の死因贈与契約があるとき。
イ  遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り,配偶者長期居住権に係る審判をすることができる。
(ア) 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
(イ) 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき。
ウ  配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とする。ただし、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによる。
・エ  居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は消滅しない。

3 原則的持戻し免除
・ 簡単に言うと、贈与の際に、遺産分割でこの贈与を外して相続分を考えるというのが持戻し免除の意思表示であるが、20年以上夫婦の場合、夫が何も言わなかったとしても持ち戻し免除の意思表示があったものと推定する規定。これにより、財産が居住用不動産だけであった場合、妻は、不動産を売却しないで済む。これが、20年夫婦に居住権の保護といわれた規定。
・民法第903条に次の規律を付け加えるものとする。 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し,その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、民法第903条第3項の持戻し免除の意思表示があったものと推定する。

A.遺言書を作成すると、Q1のように、それだけで遺された者の負担が減少しますが、特に、次の場合には、公正証書遺言の作成を強くお勧めします。愛する者のために、あなたの想いを形にするために是非とも公正証書遺言を作成してください!

 

  遺言がないと、配偶者の兄弟姉妹に遺産の一部(4分の1)が相続されます(兄弟姉妹との間に争いがない場合でも、遺産の取得をしないという文書に印鑑登録証明書と実印をもらわなければならず、残された配偶者に負担がかかってしまいます。)。遺言がないと、相続発生後、預貯金が凍結されますので、きょうだい間が疎遠であると、長期間にわたり預貯金が凍結されてしまい、悪くすると遺産の4分の1が疎遠な兄弟姉妹のものになってしまいます。ですので、お子様のいらっしゃらないご夫妻の場合は、夫婦での公正証書遺言の作成を強くお勧めします。

夫婦それぞれで公正証書遺言を作成する。夫婦2人が死亡した場合は、大好きな甥(例)に財産を残すようにする。

  夫婦それぞれで公正証書遺言を作成し合うのは、とても良い方法です。この場合、第1次的にはそれぞれ配偶者に財産を相続させる旨記載するとともに、さらに、後に述べる予備的遺言の条項を加えることにより、夫婦がお二人ともお亡くなりになった場合、甥や姪、世話になった人、研究団体、慈善団体に遺贈する旨の遺言を作成します(例えば、「配偶者(乙)が遺言者の死亡以前に死亡した場合、乙に相続させるとして全財産を、遺言者の配偶者の甥○○に遺贈する。」とします。)。これによって、夫婦ともにお亡くなりになった場合の財産の行き先もハッキリさせることができます。(予備的遺言を活用した夫婦双方の公正証書遺言)

  ※夫と妻がそれぞれ相手方に全財産を相続させる旨の遺言を書き、夫が先に死亡した場合、夫の遺言が有効になって、夫の財産は妻に渡ります。妻の遺言のうち、「夫に財産を相続させる」という部分は夫が死亡したため無効になってしまいますが、「自分より先に夫が死亡した場合、夫に相続させるとした全財産を甥に相続させる」とする部分は有効になりますので、妻の全財産は甥に相続されることになり、夫婦の全財産は甥に渡ることになります。

  

 

  先妻/後妻の子には、2分の1の法定相続分(※)があります。遺言がないと、先妻の子との間で、遺産分割協議をしなければなりません。先妻との子と疎遠になっている場合、後妻が連絡を取ることは、それだけで精神的に億劫なことです。先妻の子から法定相続分を主張された場合、後妻が夫にどれだけ貢献しようと、先妻の子がどれだけ疎遠になっていようと、法定相続分だけは遺産を分ける必要があります。最悪の場合、居住していた不動産を売却せざるを得なくなります。
(※配偶者2分の1、子全体で2分の1の相続分割合です。ちなみに、前妻/後妻の子が合計3人いる場合、2分の1を3で除した6分の1の相続分になります。)
  ただし、公正証書遺言を作成しても、先妻の子から遺留分減殺請求権を主張されることはあります。その場合でも遺言の有無によって、結果は大きく違ってきます。 

設例(先妻の子と後妻)

  先妻の子が1人いて後妻との間に子がいないケースで、後妻に全ての財産を相続させる旨の公正証書遺言を作成した上で夫が死亡した場合で考えてみましょう。
  遺言がないと、後妻と先妻の子の法定相続分は、2分の1ずつです。財産を半分に分けることになります。
  遺言がある場合、先妻の子が遺留分減殺請求権を行使したとします。先妻の子の遺留分割合は4分の1(法定相続分の半分)です。遺言は、この部分を侵害しており、この部分の財産を取り戻されることになります。しかし、遺言がない場合(2分の1)に比べると、遺言がある場合(4分の1)は、後妻の立場はかなり有利になります。

【先妻の子に遺留分の放棄をしてもらう】
  先妻の子と連絡が取れて、その子の理解が得られるようであれば、先妻の子に家庭裁判所(被相続人の住所を管轄する家庭裁判所)に遺留分放棄の許可の申立てをしてもらいます。この申立てが認められると、先妻の子の遺留分減殺請求権は発生しません。
  家庭裁判所に申立てはしないけれども、遺留分を主張しないと約束してもらった場合、法律的な効力はありませんので、後に、約束を翻されるおそれはあります。ただし、口約束であっても、これを翻すことには心理的な抵抗はありますので、事実上のリスクを軽減させます。

【付言事項を利用して「遺留分の主張をしないよう」に要請する方法】
  公正証書遺言に付言事項を付すことによって、事実上遺留分の主張をしにくくすることが考えられます。例えば、「○○(先妻との子)には成年まで養育費をきちんと支払ってきた。残された遺産は後妻である○○と一緒に築いたもので○○にとっては今後の生活の基盤になるものだ。法律上の権利だからといって遺留分を主張しないでほしい。私の最期の願いです。」などと記載しておきます。
  これは、法律的な効果はないのですが、相手の心情に訴える点で効果があります。調停や訴訟では、必ず公正証書遺言は証拠で提出されますので、調停委員や裁判官に対し、先妻の子は、遺言者の強い意向に反して法的手続をとった人間であることをそれとなくアピールできます。

【遺留分減殺請求権の行使期間】
  遺留分減殺請求権を行使できるのは、死亡した事実が遺留分権利者に分かってから1年間です。その間で、遺留分減殺請求をする旨の意思表示をします(証拠を残すために内容証明郵便で通知するのが普通です。)。 

【遺留分貯金のお勧め】
  これも事実上のお勧めですが、「遺留分貯金」をするのもアリだと思います。遺留分に相当する金銭を貯金として残しておき、もし相手方が遺留分減殺請求権を行使しなければ、これを遺言者からのプレゼントとする方法です。事前に対策を施しておくことで最悪の事態からのダメージを少なくします。

【金融財産を一時払生命保険にして受取人を後妻にする方法】
  これも絶対というわけではありませんが、事実上、遺留分減殺請求権を行使しにくくしています。ただし、効果が限定的である可能性もありますので、専門家の助言を受けることをお勧めします。後記3もお読みください。

 

  遺言がないと、長男の嫁や内縁の妻には、遺産の取り分が全くありません。遺言がないと、懸命に介護をして看取った長男の嫁に遺産の取り分が全くないということになりかねません。遺言者に「遺言の話を持ち出す方法」など難しい問題(財産目当てで介護しているのかと思われるのではないかと勘繰られるだあけでも不快なことでしょう。)もあると思います。しかし、「悲惨な」結果になる前に上手に対処したいものです。  

重婚的内縁と遺言

  重婚的内縁で、法律婚の妻との間に子がいたとします。遺言書で「全ての財産を内縁の妻に遺贈する」旨記載したとします。遺留分減殺請求権を行使しないこともありますので、その場合は遺言書のとおり全ての財産が重婚的内縁の妻に渡ります。逆に、遺言書がないと、相続人が内縁の妻に財産を渡そうとしても、相続人からの贈与となり、贈与税が課されます。
  法律婚の妻から、遺留分減殺請求権が行使されることがあり、その場合、遺産の半分が取り戻されます。それでも、遺言がない場合(財産が渡らず、内縁の妻の生活が立ち行かなくなる。)場合に比べれば、重婚的内縁の妻にとっては生活の支えになります。
 【遺留分減殺請求権への対処方法の例】(一部重複)
生前贈与・・・被相続人が亡くなる前1年超の生前贈与は遺留分権利者への侵害になることを知らなかった場合、遺留分減殺請求権の対象にはなりません(民法1030条全断)。贈与税が発生することがありますが、生前贈与は一つの方法です。ただし、重婚的内縁関係の場合、「法律婚の妻の遺留分を侵害する意思があった」と認定されるリスクは高いと思われます。生前贈与も遺留分を侵害しないようにする方が無難でしょう。
一時払生命保険契約・・・平成16年の最高裁決定で、「生命保険金は、原則として、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与には該当しない」としました。しかし、「総合的に考慮して、保険金受取人との間での不公平が著しい場合」には遺留分減殺請求権が行使される可能性があります。この考え方は、遺留分にも応用できるものと考えられます。
信託契約の設定・・・有力な方法ですが、これも絶対の方法ではありません。遺言者を委託者兼受益者、長男を受託者とし、当面は父親である遺言者のために信託財産を用い、遺言者死亡の場合に、残余財産取得者(最終的な財産の取得者)を決めておきます。信託財産は、遺言者や受託者の固有財産とは別個に管理されるため、事実上遺留分減殺請求権を行使しにくくしています。信託契約と遺留分減殺請求権との関係は、裁判例も乏しく、未知の分野といえます。信託に詳しい専門家へのご相談をお勧めいたします。  

 

  法定相続人の誰か一人でも外国に居住したり、海外国籍になった場合、公正証書遺言がないと戸籍謄本や住民票の取寄せに膨大な時間と費用がかかります。これは自筆証書遺言でも戸籍の取寄せの手間は同様ですので、公正証書遺言を強くお勧めします。
  離婚、再婚を繰り返した親族がいる場合も戸籍の取寄せや整理に時間を要します。養子縁組を多数回実施している場合も同様です。兄弟姉妹が多数である場合も、子どもたちの有無を調査しなければならず、大変です。遺産分割協議や検認手続(自筆証書遺言)では、相続人の全ての戸籍を取寄せなければならないため、負担が大きくなります。公正証書遺言ですと、その負担は大幅に軽減します。 

 

  法定相続ですと、遺産分割によって」事業が分割され事業承継ができず廃業せざるを得ないことがあります。農業者の場合、農地も分割されてしまいます。
  資産額が多い場合には、遺言ではなく、信託契約を選択する方法もあります。信託契約よって、経営者本人を委託者とし、当面は、経営者本人を受益者にしておき、遺言者死亡後に受益者を後継者にするように契約しておきます。受託者は、後継者にする場合、信託銀行にする場合など多様な形態が考えられます。ただし、難しい法的な問題が含まれていることがありますので、信託契約に詳しい専門家に相談することをお勧めします。Q13で信託契約について少しだけ説明しています。

 

  孫には、親が存命中は相続権がありません。ですので、孫に遺産を渡したい場合は、遺言をしておく必要があります。

 

  例えば、この人だけには財産を渡したくない、渡す財産をできるだけ少なくしたいと思っている場合などには慈善団体や研究団体、自治体に遺贈する方法もあります。


  入院費用や介護費用などを清算した後に財産が残っていれば、遺言執行者をしてこれらを換価売却処分して遺贈(事実上の寄付)をする方法があります。遺言がないと国が遺産を取得することになります。

 

A.自筆証書遺言は、遺言者が自らが、遺言の全文、日付及び氏名を書き、署名の下に押印することで完成します。ワープロで書いた遺言や録音・録画した遺言は無効です。上の4つ、すなわち、① 遺言全文、② 日付③ 遺言者氏名④ 押印は、絶対の要件です。自筆証書遺言は、いつでも気軽に書くことができ、費用もかからないというメリットがあります。
  その代わり、デメリットがあります。下記のコラムを参照してください。
  自筆証書遺言ですと、残された者の手間は公正証書遺言に比べて大きくなります。遺言者の手間と費用は掛かりますが、公正証書遺言は、残された人の手間と費用がはるかに少なくて済みます。
  「自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらを選択すべきか?」という質問を受けることがあります。その答えは、次のとおりです。
  自筆証書遺言は、仮設住宅のようなものです。とりあえず、最低限度の効果があります。下記のとおり欠点がありますが、公正証書遺言を作成するまでの仮住まいと考えるべきです。これに対し、公正証書遺言は、本格住宅です。残された者の手間を最小化することができます。ですので、どちらを選択するかということではなく、まずは、自筆証書遺言を書いておき、ゆとりができたら公正証書遺言を作成するのがいいと思います。 

自筆証書遺言の欠点

1.上記の4つの要件が一つでも欠けると無効になります(要式行為)。現在、民法改正が進められていますが、現行法ではワープロで書いた遺言書は無効です。自筆証書遺言を訂正する場合は民法による厳格な手続をとる必要があります。書き間違えた場合は、全文を書き直す方が無難です。これらは、民法改正で若干の緩和がされる見込みですが、厳格な要式が残存することに変わりありません。

2.法律家ではない人が遺言を書く場合、遺言の趣旨が不明確となってしまうことがあります。例えば、「長男に家をあげる」と書いた場合、どこの家を指すのか特定できませんし、また、家の敷地(土地)を相続させない趣旨と受け取られるおそれもあります。趣旨が不明だと、その部分の遺言は効力を生じないことになります。ただし、「私の全財産を妻に相続させる」など単純な内容(包括的な相続)であれば、自筆遺言証書でも十分に対応可能です。複雑な内容を記載したちとお考えの場合、市販本を読んだり自筆証書遺言の書き方のホームページなどでを研究することをお勧めします。

3.自筆証書遺言の大きな「欠点」は検認手続があることです。検認手続は裁判所による「証拠保全手続」です。自筆証書遺言を発見した人は、家庭裁判所で「検認」の手続をとらなければなりません。具体的な検認手続は、自筆証書遺言を裁判官が開封してこれを調書に残す作業です。面倒なのは、全ての相続人に検認に立ち会う機会を与えるため、遺言者が生まれてから亡くなるまでの全ての戸籍を収集し、相続人に漏れがないように確認しなければなりません。これらの戸籍の収集は検認申立人が行わなければなりません(裁判所はこの作業を代行してくれません。)。法定相続人が遠方にいたり、外国籍になっていた場合にもそれらの書類を収集しないと裁判所は検認手続を進めません。書類がそろった段階で、家庭裁判所は、全相続人に遺言検認日を通知して立ち会う機会を与えます。相続人は指定された検認期日に家庭裁判所に出頭することになります(ただし、申立人以外の相続人は、出頭が「義務」ではありませんので検認期日を欠席することもできます。)。検認当日までの申立人の準備は、かなりの作業量になります。
  法定相続人の数が少ない場合はそれほどではないのですが、法定相続人の数が多い場合は大変ですし、法定相続人の誰かが離婚と婚姻を繰り返したり、認知した子がいたり、転居が頻繁であったり、外国に転居した人(現地で婚姻し、その後その人が死亡していた場合はもっと大変です。)がいたとすると、その追跡をするのは専門家でも容易ではありません(公正証書遺言では、その手間と費用から解放されます。)。
  今回の民法の改正により法務局に預けられるようになり、そうした場合は、検認の手間を省くことができます。

4.そもそも、自筆証書遺言が発見されないこともありますし、自筆遺言証書を発見した人が、その遺言書を隠してしまったり、破棄してしまうことがあります。悪意がなくても、検認手続が面倒だからという理由でせっかく書いた遺言書が生かされないことも多いと思われます。自筆証書遺言の作成をなさる場合、信頼できる人に遺言書の存在を知らせておくのがいいと思います。

5.筆証書遺言が本当に遺言者が書いたものであるか争われる場合があります。また、自筆証書遺言に書かれた日付が本当にその日付なのかも争われることがあります。

検認手続

  検認期日では、裁判官、書記官、遺言者の相続人全員(申立人以外の相続人は欠席することも可)が裁判所の家事審判廷に集まり、裁判官又は書記官が自筆証書遺言を開封します。そして、裁判官が、自筆証書遺言の内容を読み上げます。その後、その自筆証書遺言の筆跡や印影が遺言者本人のものであるかどうか、出席した相続人一人ひとりに確認します。各相続人は、「遺言者の筆跡に間違いないと思います。印影は遺言者が使っていた印鑑の印影です。」とか、「筆跡は遺言者のものであるかどうか分かりません。年をとって筆跡が変わったかもしれません。私は、遺言者がどのような印鑑を使用していたのか分かりませんので、印影については分かりません。」とか、「遺言者の筆跡とは違うと思います。印影も遺言者のものではないと思います。」などと回答します。
  これらの供述を書記官が検認調書にまとめ、検認した自筆証書遺言のコピーをとり、検認調書を作成します(作成には数日かかることがあります。)。この遺言書の検認調書によって登記手続をしたり銀行等金融機関から預貯金の払戻しが可能になります(金融機関によってはさらに書類を要求されます。また、金融機関や登記官から、遺言とは認められないとして手続を拒否されることもあります。)。検認手続は、自筆証書遺言の成立の真正を認めるものではありません。

公正証書遺言の欠点と長所

  公正証書遺言の長所と短所をまとめてみます。
  公正証書遺言のデメリットは、
相応の費用(公証役場に直接依頼する場合、統計的に4万円から12万円の間が多いです。遺産をあげる人の数が多かったり、遺産額が多額の場合は、手数料が高くなります。)が発生してしまうことです。特に銀行、信託銀行などのに公正証書遺言の作成仲介を依頼する場合、遺言執行費用(遺言者死亡後の名義変更の手続に要する報酬や費用)を含め高額な報酬(現状では100万円単位)が発生してしまいます。現状では、銀行に依頼するよりも、弁護士、司法書士、行政書士、税理士、公認会計士、社会労務保険士などの士業者に依頼する方が遺言執行を含めても費用は低廉に抑えられることが多いようです(遺産額にもよりますが、銀行の半分以下くらい)。
②公証役場との間で、書類のやり取りや打合せが必要となりますので、自筆証書遺言のように気軽に作成するというわけにはいきません。公証役場の敷居が高いと感じられる人もいると思います(実際には敷居は高くありません。)。もちろん、直接公証役場に赴き、作成を依頼することも可能です。ただし、公正証書を作成するための資料はご自分でそろえていただく必要があります。
③利害関係のない立会証人2名も必要になります(大部分の公証役場で立会証人を紹介しています。その場合、公証役場への手数料とは別に謝礼が必要になります。)。

  実際問題として、弁護士、司法書士、行政書士などの専門家の多くが口をそろえて公正証書遺言を推奨しています。自筆証書遺言を進める専門家はいないといって過言ではありません。その理由ですが、公正証書遺言は、

1.法律家が作成する文書ですので、要式の誤りはなく、無効となる心配はありません。遺言の趣旨についても厳格な検討がされますので、遺言者の意向が保護されるといってもいいでしょう。
2.相続発生後、検認手続、遺産分割手続のような面倒で時間のかかる作業を相続人が負担しないで済みます。遺言公正証書では、ほとんどの場合、遺言の内容を実現する遺言執行者が指定されており(指定されていない場合や遺言執行者がいなくなった場合は、申立てにより家庭裁判所が選任します。)、他の相続人の同意を得ることなく遺言内容が実現されます。例えば、子のいない配偶者に相続させる旨の遺言の場合、兄弟など他の相続人の実印押印の必要なく、不動産登記手続を進めることができたり、銀行預金を遺言書のとおりにすることが可能ですし、遺言書に代理人によることを認めた場合には、移転登記などの作業を第三者に依頼することもできます。法定相続人がたくさんいたり、相続関係が複雑な場合、海外居住や外国籍の法定相続人がいる場合には、検認手続、遺産分割手続を省略できるメリットはとても大きいと思います。
3.公証人の面前で遺言者が述べたことを公正証書にするので、遺言者の意向に争いが生じる余地がほとんどありません
4.遺言者が手指が不自由な場合、自筆証書遺言は書けませんが、公正証書による遺言では公証人が遺言者の署名を代筆することができます。
5.遺言者の判断能力が衰えていた場合、遺言を作成する能力(遺言能力)が相続人によって争われることがありますが、自筆遺言証書と異なり、公正証書遺言の場合は、公証人及び2人の立会証人が立ち会って作成していますので、遺言能力がないと判断されるリスクが自筆遺言証書よりも著しく減少することになります。

  
  

 

A.① 遺言者ご本人の戸籍謄本、② 遺言者ご本人の印鑑登録証明書と実印、③ 不動産登記情報(登記簿謄本)、④ 固定資産評価証明、⑤ 預貯金通帳
 このほか、場合によって、必要になる資料があります。

こ・い・と・か・つ

 遺言作成に必要な代表的な資料が5つあります。これを「キーワード」のそれらの「最初の音」を拾って、「こ・い・と・か・つ」と覚えます。
1. 戸籍謄本の「」。遺言者ご本人の戸籍謄本(全部事項証明書)のこと(※1)
2. 印鑑登録証明書の「。遺言者ご本人の戸籍謄本のこと。これと遺言者の実印(実印とは、印鑑登録証明書の印鑑のことです。)(※2)
(「運転免許証orパスポート0r写真付き住基カードor個人番号カード」+「認印」でも可。保険証は不可)
3. 登記情報の「」。財産の中に不動産がある場合には,その登記事項の証明書(登記簿謄本)
4. 課税明細書の「」。固定資産評価証明書(又は固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書
5. 通帳の「」。預貯金通帳の写し(銀行名、支店名、預金種類、口座番号、残高の情報)

※1 戸籍謄本(全部事項証明書)は、「本籍地の市区町村」の役所役場(戸籍係)に直接又は郵送で取り寄せることができます。ほとんどの市区町村でネットから申請書、具体的な記載例をダウンロードすることができます。手数料は1通につき450円です(郵便局で定額小為替を購入してください。)使用目的を「公正証書遺言作成」と記入します。その他、本籍地の市区町村のホームページをご覧ください。例⇒⇒ 戸籍謄本の取得
※2 「住所地の市区町村」で取得します。印鑑登録をしていれば、印鑑登録カードが発行されていますので、このカードを使用することで速やかに印鑑登録証明書が発行されます。印鑑登録をしておられない方は、インターネットで「印鑑登録の方法」を検索してください。例⇒印鑑登録の方法
※3 登記情報の取得方法には、3つあります。① 1直接その不動産を管轄する法務局の窓口に赴き、印紙を貼って申請する方法。② 郵便で管轄する法務局に申請書に印紙を貼って、返信用封筒とともに申請する方法。⇒⇒登記情報取得の方法
  上記①、②のほかに、③ インターネットを利用して、登記情報を取得する方法(登記情報提供サービス)があります。インターネットを利用できる(クレジットカードが必要)があれば、③の方法が時間と費用の節約ができ、お勧めです。⇒⇒登記情報提供サービス (③の場合、登記官の証明印はありませんが、遺言作成には差支えありません。)

そのほかの必要書類

6.財産を継承(譲渡)なされたい方が、ご本人の戸籍には載っていないご親族である場合、その方の戸籍謄本(ご本人さまとの続柄(間柄)を知るのに必要です。甥姪やいとこの場合、その親の戸籍謄本(改製原戸籍)が必要になることもあります。)、財産を相続人以外の人に遺贈する場合には、その人の住民票(法人の場合には資格証明書(商業登記簿謄本))が必要です(譲られる方の存在を明らかにし、その人を特定するためです。)。7.公開株、投資信託をお持ちの方は、それらを管理する証券会社や信託会社の支店名と口座番号(流動性が高いので、「〇〇証券〇〇支店で管理している株式、投資信託、その他金融商品一式」とすると、その後の売買にも対応できます。非公開株など流動性が低い金融財産をお持ちの方はそれを特定する資料があるとベターです。これらの金融商品等の評価額を裏付ける資料も手数料算定のために必要になります。
8.以上について、財産や遺言内容を記した書面を作成しておくと、公証人との話がスムーズに進みます。
9.公正証書遺言をする場合には立会証人2人が必要ですが、遺言者の方で証人を用意される場合には,証人予定者の①氏名,②住所,③生年月日及び④職業をメモした書面が必要です。公証役場で紹介することもできます。その場合、紹介した立会証人に謝礼を支払っていただきます。謝礼額は公証役場によって異なりますので、その公証役場にお尋ねください(Q5もご覧ください。)。
10.その他、遺言の内容によって、必要となる資料が異なりますので、これらについては公証人とよく話し合ってください。


 

A.遺言の内容によって異なります。ただし、統計的には、特に5万円から10万円くらいの間が多いようです。病院や施設など病床施設に出張して遺言や任意後見契約の公正証書を作成する場合には、その1.5倍くらいの費用が必要です(詳しくは公証役場にお尋ねください。)。
  公証人の仕事に対しては、「公証人手数料令」という政令(内閣が制定する命令)で定められた手数料をお支払いいただきます。公正証書作成時に現金で一括精算願います。カードでのお支払はできませんので、ご注意ください。
  遺言など法律行為に係る証書作成の手数料は、原則として、その目的価額により定められています(手数料令9条)。
  目的価額というのは、その行為によって得られる一方の利益を金銭で評価したものです。目的価額は、公証人が証書の作成に着手した時を基準として算定します。その後の価額の変更は考慮されません(不動産の価額が値上がりしても追加してお支払していただく必要はありません。不動産の評価額は、下記コラムをご覧ください。)。
 このほかに、
 遺言公正証書を作成する場合、利害関係のない第三者2名を証人として立ち会ってもらう必要があります。嘱託人側で、証人候補者がいない場合は、公証役場でご紹介することができます。その場合、その証人に対する謝礼(ある公証役場では1人5000円(証人2人で1万円)を基準としています。出張して作成する場合の謝礼は、1人8000円です(交通費込み)(※)。各公証役場で謝礼基準が異なっています。そのため、立会証人に対する謝礼額については、依頼する公証役場にお尋ねください。
※:例えば夫婦で一緒に公正証書を作成する場合、2人目以降は証人に対する謝礼は減額している公証役場もあります。例えば、1人目は5000円ですが、2人目から2500円(出張の場合の謝礼は8000円、夫婦で作成する場合など2人目以降の謝礼は4000円)など

法律行為に係る証書作成の手数料(公証人手数料令より)

・100万円以下 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥5000円
・100万円を超え200万円以下‥‥‥‥‥‥‥‥ ‥‥7000円
・200万円を超え500万円以下 ‥‥‥‥‥‥‥‥1万1000円
・500万円を超え1000万円以下 ‥‥‥‥‥‥‥1万7000円
・1000万円を超え3000万円以下 ‥‥‥‥‥‥2万3000円
・3000万円を超え5000万円以下 ‥‥‥‥‥‥2万9000円
・5000万円を超え1億円以下 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥4万3000円
・1億円を超え3億円以下 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥4万3000円に5000万円までごとに1万3000円を加算
・3億円を超え10億円以下 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥9万5000円に5000万円までごとに1万1000円を加算
・10億円を超える場合 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥24万9000円に5000万円までごとに8000円を加算

・遺産総額が1億円以下で遺言を作成するの場合は、いわゆる「遺言加算」として1万1000円が加算されます。

公正証書遺言作成費用の算定例1・公証役場内で作成する場合

   遺言者の遺産評価額合計が4500万円で、これを妻に3000万円分、長男に1000万円分、長女に500万円分相続させる内容の公正証書遺言の作成手数料はいくらになるでしょうか?公正証書の枚数は、5枚になったとします。
 ① 妻に相続させる法律行為:経済的価値が3000万円以下で手数料「2万3000円」
 ② 長男に相続させる法律行為:経済的価値が1000万円以下で手数料「1万7000円」
 ③ 長女に相続させる法律行為:経済的価値が500万円以下で手数料「1万1000円」
 ④ 遺産額1億円以下については遺言加算として「1万1000円」
 ⑤ 以上の合計額は、6万2000円です。これに「紙代」が発生します。公正証書は、原則として、原本(公証役場が預かるもの)、謄本(原本と同じ内容が書いてある写し)、正本(原本と同じことが書いてあるが、登記名義の変更や預貯金の払戻しができる力のある写し)の3通を作成します。1枚当たり250円とし、その合計枚数から原本4枚分(原本が3枚以下の場合は、その数)を控除した枚数で紙代を計算します。よって、15枚から4枚を控除した11枚×250円で2750円になります。公証役場に支払をお願いするのは、合計6万4750円です。
  立会証人を公証役場に依頼した場合、立会証人に対する謝礼が必要になります。これは公証役場や公証人によって微妙に異なります。一人当たり5000円、2人で1万円というところもあります。夫婦で一緒に作成する場合、2人目からは謝礼が割り引かれ、一人当たり2500円になる公証役場もあるようです。(この場合、夫婦二人が一緒に作成する場合の合計謝礼は1万5000円になります。)

公正証書遺言作成費用の算定例2・公証役場内で作成する場合

  遺言者の遺産評価額合計が6000万円。これを全部妻に相続させる内容の公正証書遺言の作成手数料はいくらになるでしょうか?公正証書の枚数は4枚になったとします。
 ①法律行為は、妻に相続させる行為1つで経済的価値が1億円以下で手数料「4万3000円」
 ②遺言加算が「1万1000円」
 ③以上の小計額は、5万4000円。紙代が2000円で、合計5万6000円です。遺産額が多いのに、事例1よりも手数料額が少なかったの理由は、遺産をあげる人が少な(法律行為が少ない)かったからです。
 これに公証役場から証人を紹介した場合の証人への謝礼が発生します。

遺言作成費用の算定例3・出張して作成する場合

   遺言者の遺産評価額合計が4500万円で、これを妻に3000万円分、長男に1000万円分、長女に500万円分相続させる内容の公正証書遺言を病院(病気で入院中の遺言者)で作成する場合の手数料はいくらになるでしょうか?公正証書の枚数は、5枚になったとします。
 ① 妻に相続させる法律行為:経済的価値が3000万円以下で手数料「2万3000円」
 ② 上記にかかる病床執務加算として、上記手数料に0.5を乗じた金額「1万1500円」
 ③ 長男に相続させる法律行為:経済的価値が1000万円以下で手数料「1万7000円」
 ④ 上記にかかる病床執務加算として、上記手数料に0.5を乗じた金額「8500円」
 ⑤ 長女に相続させる法律行為:経済的価値が500万円以下で手数料「1万1000円」
 ⑥ 上記にかかる病床執務加算として、 上記手数料に0.5を乗じた金額「5500円」
 ⑦ 遺産額1億円以下については遺言加算として「1万1000円」(遺言加算には病床執務加算はされません。)
 ⑧ 日当(4時間以内)として「10000円」
 ⑨ 以上の合計額は、9万7500円です。これにいわゆる「紙代」が発生します。公正証書は、原則として、原本、、謄本、正本の3通を作成します。1枚当たり250円とし、その合計枚数から原本4枚分を控除した枚数で紙代を計算します。よって、15枚から4枚を控除した11枚×250円で2750円になります。公証役場に支払をお願いするのは、合計10万0250円です。

目的価額の算出方法

   経済的価値を算定する基準時は、公正証書作成時です。その時に有していた財産の評価額が経済的価値を算定する基準にします。その後に、預貯金の増減があった場合、不動産価額の変更があった場合、株価・有価証券評価額の上下があった場合でも追加手数料の徴収や手数料の払戻はいたしません。
  預貯金は、預貯金額で、株価・有価証券評価額は直近の評価額で経済的価値を決定します。
  不動産は、原則として固定資産税評価証明書の評価額(課税明細書の評価額欄の金額)を基準に評価します(そのままの金額で評価する公証役場が多いようですが、地域によって1.4倍することがあるなど、いろいろあるようです。)。
  例えば、妻に相続させる財産が不動産と預金である場合、その合算額が目的価額として、手数料を計算します。

A.統計的には、資料がそろってから数日から1週間内に作成されることが多いようです。
  遺言内容が単純で、資料もきちんとそろっている場合には、相談の翌日に作成することもあります(資料がそろっていても、公証人や立会証人のスケジュール調整が困難で早期に作成できない場合もあります。)。
  出張して作成するには、スケジュール的に厳しい場合もありますので、早めのご相談をお願いします。公証役場や公証人によっては、繁忙度も異なります。ご依頼なさる方は、「相談の予約日程がどれくらい先になるのか」を電話などであらかじめ問い合わせるのがいいと思います。
  ご本人の病状が深刻化してから公正証書の作成を依頼なさる方もおられますが、スケジュール調整が大変であるほかに、ご本人の遺言意思がはっきりしなかったり、遺言能力が失われている場合もあり、依頼者のご期待に沿えないことが少なくありません。ご本人がお元気なうちに、早めに作成しておくことを強くお勧めします。

  例外的に、公正証書遺言作成まで長期間かかることもあります。原因として、① 資料がそろわない場合、② 依頼者(嘱託人)が遺言内容の検討・再検討に時間を要している場合、③ 遺言内容が複雑な場合、④ 他の案件が多数入っており、公証人が起案をする時間がとれなかったり、相談や作成日の候補がなかなかとれない場合、⑤ 公証人が、資料を受け取って、公正証書遺言を起案する段階になって、新たな資料又は情報が必要になると気づく場合(公証人も人間ですので、当初の打合せだけでは気づかない問題点が存在することがあります。)などです。
  長期間たっても、公証役場からの連絡がない場合には、メールや手紙、電話などで進ちょく状況を尋ねるとよいでしょう。

A.できます。
  公証人は、定められた公証役場内で仕事をするのが原則です。しかし、遺言と任意後見契約(代理人が許されず、本人立会いでしか作成できません。)に関しては、その公証人が所属する都道府県内であれば病院や施設に出張できます。贈与契約や賃貸借契約については、代理をするが許されます。その場合は公証人が出張することができません(公証役場内で作成をお願いします。)。
  出張で公正証書を作成す場合の費用は、公証役場で作成するときの約1.5倍の費用が必要です(病床執務加算:通常の手数料に0.5を乗じた費用)、日当(通常1万円、ただし、4時間を超えると2万円)、交通費(実費)、出張証人の謝礼(公証役場内での謝礼よりも高額になります。)がかかります。詳しくは、公証役場にお尋ねください。

A.できます。
  これを付言事項といいます。「非法定遺言事項」ということもあります。
  例えば、
① 家族・恩人への感謝の気持ち、
② 残された者に伝えたい事柄・教訓など、
③ 遺言者の葬儀や菩提寺などの希望、
④ 事業継承にあたっての遺言者の希望、
⑤ これまでの生涯の振り返り、
⑥ 遺言内容の理由などを記載することができます。中には、
⑦Q9で取り上げますが、遺留分権利者に「遺留分減殺請求権を行使しないでほしい」旨を記載することもあります。
  ここに記載した事柄(付言事項)は、法律的な効力はありませんが、相続人などに遺言者の心情を書き遺すことによって、遺言者からのメッセージが強く伝わることになります。人の心は法律によって動かされるというよりも、真心によって動かされることの方が多いものです。
  付言事項を記載することで、遺言書の手数料が高額になるわけではありません(遺言書の枚数が増えたための費用(1枚当たり250円×3)はかかります。)。ただし、長すぎる付言事項は、メッセージ性が希釈されてしまうので、ある程度簡潔に記載することが相当でしょう。

A.本当です。遺留分減殺請求権を行使されると、遺言で取得した遺産の一部が取り戻されてしまいます。
  例えば、遺言者である父親(配偶者は既に死亡)が、遺言で遺産の全てを長男に相続させるとしたとしても、2人兄弟の弟(二男)から、兄である長男に遺留分減殺請求権を行使されると、4分の1の遺産は取り戻されてしまいます。遺留分は、原則として法定相続分の2分の1です。
  遺言者のきょうだいには、遺留分減殺請求権がありませんので、遺言の内容は絶対的なものになります。
  遺留分の問題は、いろいろな要素が絡み合っていますので、理解することが難しい分野でもあります。
 

遺留分減殺請求権の概略

① 遺留分を行使できる人・・・・遺言者の配偶者、子、孫、親(兄弟姉妹には遺留分減殺請求権はありません。)
② 遺留分を行使できる範囲・・・遺留分権利者は法定相続分の2分の1の遺留分を持っています(遺留分権利者が親だけの場合は3分の1)。③ 遺留分の侵害とは・・・・・・例えば、遺言者の相続人が後妻と先妻の子2人(長男、二男)で遺産が4000万円あった場合、遺言者が「後妻に全ての遺言を相続させる」旨の遺言をした場合、子はそれぞれ法定相続分(2分の1×2分の1=4分の1)の半分の8分の1(500万円)の遺留分減殺請求権を持ちます。つまり、長男と二男は、それぞれ「500万円の遺留分を侵害された」と主張することができます。遺言の受遺者・受贈者にとっては、この分は取り戻されてしまうことになります。遺留分の計算については、こちら。
④ 遺留分侵害を主張するには・・遺言者が死亡したことを知ったときから1年以内に遺留分減殺請求権を行使したことを受遺者、受贈者に意思表示しなければなりません。証拠を残すために、内容証明郵便で「遺留分減殺請求権を行使します」などと書いた内容証明郵便で郵送することが多いようです。
⑤ 遺留分減殺請求を封ずるためには・・遺言者の生前に、遺留分の行使が予想される人が家庭裁判所に遺留分放棄許可の申請をしてもらえば、その人の遺留分請求権はなくなります。飽くまでも遺留分権利者の意向次第です。そのほかに確実な方法はありません。事実上、請求しにくくするために、付言事項で、「遺留分減殺請求権を行使しないでほしい」旨を記載することによって、遺留分権利者の心情に訴える方法もあります。相手方によっては一定の効果(特効薬ではなく漢方薬的な効果)があるかもしれません。
  遺言者としては、遺留分減殺請求権を行使されることを覚悟して、その分を「遺留分貯金」として蓄えることによって、遺留分減殺請求権を行使された場合のダメージをコントロールする方法も良いと思います。遺留分減殺請求権が行使されない場合もありますので、その場合は、遺言者からのプレゼントと考えると、精神的に楽です。
  可能な範囲で生前贈与を活用すること、一時払生命保険契約を締結しておくこと、信託契約を設定する、など部分的に有効な対策はありますが、決定的なものではありません。債務があると、遺留分請求のための基礎財産額を減少させることができる場合がありますが、それなりのリスクもあるので、専門家にご相談ください。
⑥ 実際に遺留分減殺請求権を行使するには、かなりのエネルギーが必要です。調停を経て、実際の訴訟になるまで財産評価、過去の贈与歴などたくさんの調査・検討をしなければならず、素人の方が訴訟を維持することは事実上困難です。調査や弁護士に委任するためにかなりの費用が必要で、遺留分侵害請求でもらえる額と権利行使のために必要な費用とが同じくらいになってしまうこともあります。遺留分減殺請求権を行使されたら、紛争が複雑になる前に、調停などで妥協して解決することが賢明でしょう。
⑦ 以上は、正確さを若干犠牲にして概略のみを説明しています。

遺留分減殺請求権対策

【設題】
1 夫Aと妻Bは、20年以上連れ添った夫婦です。子どもが2人います。夫Aは、最近、スナックのママCに熱中して、Bさんや子供のことを忘れてCさんの家に入り浸っています。そして、自分の全財産をCに遺贈するという遺言を作成しました。
2 夫Aと妻Bは、法律上結婚はしていますが、もう20年以上も別居しており、完全に冷め切っています。子どもはいません。Aさんのご両親も他界し、兄弟もいません。Bさんは、Aさんとの離婚に応じません。Aさんは、Bさんの生活費として月々10万円を渡しています。じつは、Aさんは、Bさんと別居して5年後、Cさんという女性と懇意になり、以来15年、Cさんと同居して実際の夫婦同様の生活をしています。Cさんとの間には、子どもも2人います。Aさんは、自分の全財産をCさんに遺贈するという遺言を作成しました。
【論点】
 設題の1と2は、いずれもAさんの遺言書の効力の問題です。設題1は、Aさん、Bさん夫妻が20年以上連れ添った場合、設題2は、Aさん、Bさんが不仲で20年間別居していた場合です。「Aさんが死亡した場合、Cさんに全財産を遺贈するという遺言書に対し、Bさん(設題1の場合その子供たち)が、死後1年以内にCさんに遺留分減殺請求をした場合、どうなるでしょう」という論点になります。
【論点に対する答え】
 遺留分減殺請求権は、当事者の法律的な身分関係のみを要件にしています。ですので、設題1でも設題2でも、同じような結論になります。
 設題1では、配偶者と子たちの法定相続分はいずれも2分の1ずつですので、Bさんが2分の1、子どもたち2名は各4分の1ずつです。遺留分割合は、法定相続分の2分の1ですので、妻Bさんの遺留分割合は4分の1、子どもは各8分の1ずつになります(これらを合計すると、Bさんたちは2分の1の遺留分割合)。Bさんたちが、Cさんに遺留分減殺請求権を行使すると、Aさんの遺言にかかわらず、全財産の2分の1を取り戻すことができます。
 設題2でも、妻BさんのほかにAさんの法定相続人はいませんので、全財産を相続できます。遺留分割合は法定相続分の2分の1ですので、Bさんが、Cさんに遺留分減殺請求権を行使すると、Aさんの遺言にかかわらず、全財産の2分の1を取り戻すことができます。
【結論の妥当性】
 設題1について、遺留分減殺請求権をBさんたちに行使させることについて、違和感を持つ人は少ないと思います。遺留分減殺請求権がなかった場合、Bさんは、長年住み慣れた家を追い出されるかもしれません。ところが、設題2については、「Bさんに遺留分減殺請求権を行使させる必要はない」という方も多いのではないでしょうか(遺言書がない場合は、Cさん家族が全く保護されませんので、Aさんは絶対に遺言書を作成しておくべきです。)。しかし、現在の民法上は、設題2についても、2分の1の割合による遺留分減殺請求権の行使を認めています。
【問題の所在】
 設題2のAさん、Cさんの立場に立つと、Bさんの遺留分減殺請求権を封じる方法はないものかと考えたくなるでしょう。その方法を、考えていきましょう。
【弱い方法】
 遺言書に、付言事項として「遺留分減殺請求権を行使しないでほしい」旨を記載する方法があります。遺言者は、遺留分減殺請求権を法的に封じることはできませんが、相手の心情に訴えるものです。実際の訴訟では、遺留分減殺を主張する原告が、遺言書を甲1号証として提出することが多いですので、裁判所の目からは、この原告は、遺言者からの遺留分減殺請求権を行使しないでほしいという嘆願にもかかわらず、その権利を行使した当事者であるということが印象付けられます。そうであっても、裁判所は、法律に反した判決を出すことができませんので、結果は変わりませんが、相手方の心情を動かす可能性もありますので、ダメ元で付言事項を付する方法も考えられます。
【完璧な方法】
 遺留分権利者に対し、事前に遺留分を放棄してもらう方法もあります。ただし、遺留分権利者の同意と協力が必要です。遺留分放棄の代償を与えて遺留分を放棄してもらう交渉が有効な場合もあります。遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可が必要になりますので、遺留分権利者に家庭裁判所に申請し、家庭裁判所からの照会に応じ、これを家庭裁判所が判断して遺留分放棄の許可をします。実際には、遺留分権者と遺言者が疎遠になっている場合が多く、この方法は現実的とはいえないことがおおいと思われます。
【信託財産にする方法・不動産・金融財産】
 これは完璧な方法ではないのですが、遺留分減殺請求権を行使させにくくする方法です。例えば、住んでいた土地と建物には遺留分減殺請求権を行使してほしくないと考えた場合、その土地と建物を協力してくれる受託者の名義に信託財産として移転してしまいます。その上で委託者兼当初受益者である遺言者の居住権を確保し、死後は自分の内妻を第二受益者にして居住権を確保するようにします。その上で、第二受益者死亡後、遺留分権利者に返還するようにすれば、あえて遺留分減殺請求権を行使しないことが考えられます。また、遺留分減殺請求権を行使するにしても、他の財産を先にしなければなりませんので、居住用の土地、建物にまで遺留分減殺請求権が及ぶリスクを下げることになります。
【一時払生命保険を締結する方法・金融財産】
 保険金受取請求権は、直接には遺留分減殺請求権の対象にはならないとの最高裁判所の判例があります。死亡保険金の受領金額や保険契約締結に至った事情によっては、遺留分の対象にされる可能性もありますが、それでも、遺留分減殺請求権を行使されにくくする効果はあります。
【遺留分貯蓄】
 遺留分相当額をあらかじめ貯蓄しておく方法で、一番現実的な方法ではあります。遺留分減殺請求権を行使されることを想定し、計画的にその分を貯蓄しておくと遺言による相続人、受遺者の精神的痛手や経済的ダメージを最小化できます。もし、遺言者の死後(遺留分権利者が知ってから)1年以上経過すると、遺留分減殺請求権は行使できなくなりますので、遺留分貯蓄は自由に講師することができます。

A. 例えば、「遺言者が、妹花子に全財産を相続させる。」との遺言を作成したとしても、その妹花子が遺言者よりも先に死亡してしまえば、その遺言は無効になってしまいます。その後、遺産分割協議又は法定相続分によって遺産を分割することになります。このような場合に備えて、「妹花子が遺言者の死亡以前に死亡した場合、妹花子に相続させるとした財産を妹花子の長女桜子に相続させる」とする遺言のことです。
  このように、遺言者より先又は同時に受遺者・受贈者が死亡した場合に備えて、受遺者・受贈者の子らに相続させる遺言を予備的遺言とか補充遺言といいます。せっかく作成した遺言が無効にならないためにも、予備的遺言、補充遺言は有用な制度です。予備的遺言、補充遺言の手数料は、全国的に統一され、2018年5月23日以降、主位的遺言とともに作成する場合は、予備的遺言独自の手数料は無料となりました。そのため、予備的遺言がとても利用しやすくなりました。

予備的遺言が特に有効なケース

① 遺言で財産をあげようと思う相手(受遺者、受贈者)が高齢であったり、病弱であった場合
  受遺者、受贈者が遺言者よりも先に死亡してしまった場合、その部分の遺言が無効になってしまいます。その場合でも予備的遺言があるときは、代わりに財産をあげる人を決めておくと、遺言が無駄になりません(例えば、その人の法定相続人に法定相続分の割合で相続させ又は遺贈するなど)。

② お子様がいらっしゃらないご夫婦が一緒に遺言を作成する場合
  もし、かわいい甥姪がおられる場合には、予備的遺言をしておくと、ご夫妻が双方ともお亡くなりになった場合、その甥姪に財産が渡すことができます。予備的遺言がないと、ご夫妻のどちらかがお亡くなりになったとき、もう一度遺言を作成しなければなりませんが、予備的遺言を作成しておくことにより、遺言作成を1回分省略することができます。また、配偶者が亡くなった時点で判断能力が衰えて遺言が作成できないというリスクを回避することもできます。

③ きょうだいには、絶対に遺産をあげたくない場合
  お子様に遺産を相続させる遺言を残されたとしても、万一そのお子様が交通事故などで死亡なさった場合、きょうだいが相続人になります(親が存命のときは親が優先)。きょうだいに遺産が渡るのを防止するためには、受贈者を交通遺児育英基金(足長おじさん)など慈善団体や研究団体に寄付(遺贈)する旨の予備的遺言を作成しておくことが有益です。

  

A. 遺言をするには、遺言能力すなわち遺言の内容を理解し、判断する能力が必要になります。 民法961条では「15歳に達した者は、遺言をすることができる」とされていますので、14歳未満の者がした遺言はそれだけで無効となります。遺言者が軽い認知症であれば遺言能力があると判断されることが多いようです。
  遺言内容にもよります。判断能力が若干でも衰えた人が複雑な内容の遺言をした場合、争われたときに、裁判所から、「遺言者がその内容を理解することができるばずがない」という判断がされるリスクがあります。軽度の認知症の方が遺言をする場合、遺言内容を単純にすることをお勧めします(例えば、「全財産を妻に相続させる。」など)。
  重度の認知症の場合は、遺言能力を認めることは困難です。遺言の作成は困難です。こうなる前に遺言の作成をお勧めします。
  成年被後見人であっても、判断能力を一時的に回復した場合、医師2人の立会いにより遺言を作成することが可能です(民法973条)。よって、重度の認知症患者の場合も同様の運用をすれば遺言を作成が可能になると考えられます。
  中程度の認知症の場合は微妙です。医師の診断書(精神科の医者でなくても可)があれば、それに従って公証人が判断します(新聞を読んだり、テレビでニュース内容がおおむね理解できているようであれば、多少の物忘れ等があっても、遺言作成に問題がないことが多いようです。)。ただし、最終的には裁判所の判断になることを十分ご理解願います。
  遺言能力がないとせっかく作成した遺言であっても無効とされてしまいます。遺言者が元気なうちの早期の遺言作成が望まれます。

長谷川式簡易スケール

  認知機能を簡易に検査する方法としては、長谷川式認知症簡易評価スケールがあります。30点満点で21点以上あれば原則として認知機能に問題ありません。10点以下は、重度の認知症とされ遺言能力を認めることは困難です。15点以下は中程度の認知症とされており、遺言能力の有無は微妙です。16点以上20点以下は軽度の認知症とされており、遺言能力を認めるケースもあると思われます。長谷川式簡易検査スケールは、下記ボタンから。
  長谷川式は、簡易に検査できますが、素人判断は禁物です(認知能力の検査であり、理解能力の検査ではありません。)。医師の診断書があれば、安心して今後の進行を決定することができますので、専門家に相談されることをお勧めします。

公正証書遺言が無効になるケース

  公正書遺言が無効になる確率は、圧倒的に少ないのですが、無効になるケースのなかでは、遺言者の意思能力(遺言能力)が存在しないという場合がほとんどです。遺言作成当時の遺言者の能力のほかに、遺言内容が複雑すぎる場合、「判断能力の低い遺言者が複雑な遺言内容を述べられるはずがない」と判断される場合があります。また、既に死亡している者に財産を与えるような遺言をしてしまった場合、錯誤無効になると同時に、そのような不合理な内容の遺言をしたとの理由で遺言能力が問われ、場合によっては公正証書遺言全体が無効になる場合があります。受遺者、受贈者については遺言作成当時の現存を示す公的文書を用意しておいてください。

 

A. 医師の死亡診断書を添えて、市区町村役場に死亡届を提出します(死体火葬許可証もでます。)。死亡届提出後、1週間くらいで遺言者の除籍謄本ができます。遺言執行者が定められている場合は、除籍謄本と公正証書遺言の正本、遺言執行者の印鑑証明書、実印を持参して金融機関や法務局で預貯金の払戻し、不動産の名義変更手続をします。最近は、公正証書謄本でも事実上払戻しや名義変更に応じてくれるところが増えましたが、正本を要求される場合もあります。特に、銀行貸金庫では遺言公正証書正本の提出を要求されますので、公正証書正本を遺言者名義の銀行貸金庫に入れることは絶対に避けてください。
(手続に必要な主な書類)
・公正証書遺言の正本
・遺言者の除籍謄本
・遺言執行者の印鑑証明書
・固定資産税評価証明書
・「相続」を原因とする登記手続には、受け取る人が相続人であることを証明する戸籍(改製原戸籍など)が必要になります。
・銀行などで交付される遺言執行者の実印を押印した払戻依頼書(※)、移転登記申請書(インターネットに書式があります。)
(※ 手続に必要な書類は、各金融機関により若干異なるようです。中には、公正証書遺言正本がある場合でも、相続人全員の印鑑証明書付きの同意書を要求してくる金融機関もありますが、これは知識不足からくる誤った運用です。)

(自筆証書遺言の場合)
・必ず、家庭裁判所に赴き、遺言の検認の申立てをしてください。その際、亡くなった方の出生から死亡までの全ての戸籍謄本、法定相続人が明らかになる戸籍謄本、法定相続人の住民票等を添えることが必要になります。自筆遺言証書の保管者又はこれを発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後,遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その「検認」(裁判官が自筆遺言証書の中身を確かめ、写しをとって証拠を保存する手続)を請求しなければなりません。また、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いの上開封しなければならないことになっています。
 検認手続では、家庭裁判所が相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止します。注意していただきたいのは、検認手続は、遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。検認された遺言であっても、裁判所から後の訴訟手続で無効と判断されることはあり得ます。

・検認に必要な戸籍関係書類としては、
① 遺言者の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本、
② 相続人全員の戸籍謄本、
③ 遺言者の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本ですが、相続人が遺言者の(配偶者と)父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)の場合は、
④ 遺言者の直系尊属(相続人と同じ代及び下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合、父母と祖父))で死亡している方がいらっしゃる場合、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本であり、相続人が不存在の場合、遺言者の配偶者のみの場合、又は遺言者の(配偶者と)の兄弟姉妹及びその代襲者(おいめい)(第三順位相続人)の場合には、
⑤ 遺言者の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本、
⑥ 遺言者の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本、
⑦ 遺言者の兄弟姉妹に死亡している方がいらっしゃる場合、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本、
⑧ 代襲者としてのおいめいに死亡している方がいらっしゃる場合、そのおい又はめいの死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本になります。(詳しくは最寄りの家庭裁判所にお尋ねください。)
 このように検認手続に必要な書類をそろえるだけでも大変な労力が必要になります。公正証書遺言では、検認手続が必要ありません。最初に費用がかかってしまいますが、残された者の負担を少しでも減らすべく公証役場では公正証書遺言をお勧めしています。

(遺言書がない場合)
・上記に加え、遺産分割協議が必要になります。協議が調った場合、その旨を記載した遺産分割協議書、法定相続人全員の印鑑登録証明書、戸籍謄本、被相続人との関係の分かる改製原戸籍謄本、住民票などの提出が求められます。

素人判断は危険

信託は、様々なケースに利用することができますが、その設定にはある程度の知識と経験が必要です。必ず、信託に詳しい司法書士、行政書士、弁護士など専門家に相談してください。素人の方が見よう見まねで設定すると、思わぬトラブルになることがあります。

A.信託契約では、委託者受託者受益者の3名の当事者がでてきます。委託者と受益者が兼ねる契約もあります。
  例えば、大地主である父親が長男に資産承継させたいが、長男夫妻には子どもがいないので、長男夫妻の後は二男夫妻の子どもに跡を継がせたいと考えたとします。父親が存命中は、父親を委託者兼受益者とし、長男を受託者としておきます。不動産の管理は長男に任せ、自分は地代家賃を受け取る受益者になります。父親が死亡したら、受益者を長男夫妻に設定し、地代・家賃を長男夫妻が受け取るようにします。さらに長男が死亡した場合、第二次受託者として二男を設定しておき、受益者を長男の妻と設定し、長男の妻が死亡した場合の残余財産取得者を二男の子どもにしておけば、主な財産(実質的には地代家賃の受取人)を①父親⇒②長男夫妻⇒③長男の妻⇒④二男の子と設計しておくことができます。これを跡継ぎ連続型信託契約といいます。これを公正証書で契約書の形にします。
  遺言では、このような複雑な設計をすることはできませんが、信託契約では、比較的自由な資産承継をすることがができます。
  これまで、信託契約は、信託銀行が扱うものという観念が強かったのです(商事信託)が、平成18年の信託法改正以来、様々な工夫が試みられるようになり、信託銀行だけでなく、個人、特に家族間の資産承継、事業承継に用いられるようになりました。信託銀行を介さずに信託契約を締結する方式を民事信託といい、その中で、家族間の資産承継や判断能力の劣る者の保護を目的とするものを家族信託といいます。さらに、福祉目的の信託を福祉信託といいます。(これらは法律用語ではなく、信託の内容を一言で表現するために作られた造語です。)
  民事信託、家族信託は、遺言では賄いきれない家族の資産承継の可能性を広げるものとして、益々注目を集めるようになっています。信託契約は、その設計が複雑であるため、いきなり公証役場に持ち込むことはお勧めしません。信託に詳しい弁護士、司法書士、行政書士、税理士など士業者に相談することが妥当です。費用は、かかるかもしれませんが、何世代にもわたるスキームですので、慎重な検討が求められます。公証役場では、出来上がった信託契約内容を法的な観点から点検し、その公正証書を作成する役割が求められます。
  家族信託の課題として、受託者の暴走とどのように防止するかということが挙げられます。信託監督人を選任するなどの方法がありますが、決定的なものとはいえません。新しい分野ですので、今後の創意工夫が求められます。一番の基本は、信託契約のスキームを失敗しても容易に作り直せる仲であることが肝要で、法律的な観点yほりも人間的な観点が求められる分野ということができます。

 【遺言と家族信託の使い分け】
  遺言は、財産関係が比較的シンプルな家庭の資産承継に適します(信託契約は、契約内容が複雑になり、一般の方に分かりにくい側面があるからです。遺言で賄えるものはできるだけ遺言で賄うべきです。)。これに対し、家族信託は、①資産が多数に上る場合、②何世代にもわたり資産承継を計画的に行いたい場合、③判断能力の劣る相続人がいる場合、④自分の死後のペットの面倒を看てもらいたいなど特殊な条件がある場合など、複雑な事情のある場合に適しています。遺言に比べて、専門家の関与が必要な分、費用も必要になりますが、委託者の意向を尊重しながら、より合理的な資産承継を目指します。そして、信託設定後も、できるだけ専門家に相談できる態勢を継続的に確保することが無難です。
 信託の分野は、新しい分野で士業者間でも得手不得手が激しい分野ですので、ネットで検索するなどして、経験のある専門家にご相談なさるのが賢明でしょう。 

【安請負の信託は危険】
  信託契約は、今後、数十年の財産のスキームを築く可能性のあるものですから、信頼できる専門家によって、あらゆるリスク(少なくとも考えられるリスク)を洗い出し、信託の目的を十分に生かせる枠組みを考えて信託をアレンジすべきです。市販の信託契約、商事信託の信託モデル案をコピーして、検討もしないで当てはめることは、思わぬ地雷原を埋め込むことになりかねません。単純に報酬額の多寡で決することなく、心から信頼することのできる専門家に依頼することが大切です。


信託と公証役場

 信託は、①契約による場合、②遺言による場合、③自己信託による場合の3つの方法があります。③の自己信託による場合は、必ず公正証書(又は公証人の認証)による必要があります。②の遺言による信託も公正証書によることが大部分であると思われます。これに対して、①の契約による場合は、必ずしも公正証書による必要はありません。しかし、公正証書によらない民事信託は、銀行など金融機関が対応してくれないのが実情です。そのため、大部分の信託契約は、公正証書によって作成されています。
 信託契約は、その人その人によって、そのニーズや環境が異なるため、契約の個別性が異なってきます。その設計段階から公証役場が関与することは事実上困難です。信託に詳しい弁護士、司法書士、行政書士、税理士、信託コーディネーターなどと十分に協議を重ね、条項についても完成させた上で公証役場にご相談願います。