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法定相続分

民法900条は、法定相続分の定めです。遺言がない場合、遺産分割協議でまとまらなかった場合、家庭裁判所は、法定相続分によって相続人の相続分が決定します。法定相続分は、次のように決定します。

法定相続分の説明・その1

① 相続人が配偶者(妻、夫)だけの場合:相続分は100%配偶者のものになります。
② 相続人が子だけの場合:相続分は子の数によって均等に分割されます。子が1人の場合は100%、2人の場合は50%ずつ、3人の場合は33.3%ずつになります。養子縁組をしている場合は、養子も平等に扱われます。
③ 相続人が親だけの場合:相続分は親の数によって均等に分割されます。親の数は、通常は2人までですが、養子縁組をしている場合は、養親の数も含めますので、親の数が3人以上になることがあります。
④ 相続人が兄弟姉妹(いか「きょうだい」と表記)だけの場合:これは、㋐ 両親が同じきょうだいの場合と㋑ 父のみが同じきょうだい、母のみが同じきょうだいの場合で、相続分が変わってきます。
㋐の両親が同じきょうだいの場合、きょうだいの数で均等に、
㋑の両親が異なるきょうだい間の場合もそのきょうだい間で均等に分割されます。
㋒ところが、㋐ 両親が同じきょうだいと、㋑ 両親が異なるきょうだいでは、㋑は、㋐に比べて2分の1の相続分しかありません。
【設問】例えば、甲、乙、丙、丁の4人のきょうだいの場合で、甲、乙、丙が両親が同じだが、丁は父が再婚後に出生したとします。
甲が亡くなった場合の法定相続分はどのようになりますか?
【回答】乙と丙は、それぞれ5分の2ずつの、丁は5分の1の相続分になります(丁の相続分は乙、丙の相続分の半分)。これは、乙や丙の方が丁に比べて甲との血縁関係が濃い(両親ともに同じ)という理由です。(嫡出子、非嫡出子の問題とは異なることに注意してください。)。

法定相続分の説明・その2

【設題】甲さんが、死亡しました。甲さんには、妻の乙さん、子の丙さん、甲さんの母親の丁さん、弟の戊さんがいます。誰が相続人になりますか?【回答】民法900条によれば、配偶者は常に法定相続人になります。よって、乙(妻)は法定相続人です。次に、① 子(直系卑属)、② 母(直系尊属)、③ 弟(兄弟姉妹)間では、その順番、すなわち①子、②母、③弟の順位で法定相続人になります。設問の場合、甲の妻である乙さんと甲の子である丙さんが法定相続人になります。この段階では、母親の丁さん、弟の戊さんには遺産が全く渡らないことになります。ただし、法定相続人全員が合意すれば、丁さんや戊さんにも遺産を分けることができます(遺産分割協議。一親等以外は相続税は2割加算)。

法定相続分の説明・その3

① 配偶者と子が法定相続人の場合:配偶者が2分の1、子が2分の1。子各人の相続分は、子の数で2分の1を除することになります。
② 配偶者と親が法定相続人の場合:配偶者が3分の2、親が3分の1。親各人の法定相続分は、親の数で3分の1を除することになります。
③ 配偶者と兄弟姉妹が法定相続人の場合:配偶者が4分の3、きょうだいが4分の1。㋐ 同父母きょうだいの場合、各人の法定相続分は、きょうだいの数で4分の1を除することになる。㋑ 異母きょうだい、異父きょうだいの場合は、同父母きょうだいの半分。よって、同父母きょうだいに「2」を、異父異母きょうだいに「1」を与え、全員のその数の和を分母にし、各人に付与した「2」又は「1」を分子にした分数に4分の1を乗じた分数が法定相続分になります。

 

 

遺留分の計算

   遺留分を計算するには、まず「遺留分の基礎となる財産」を確認します。
  「遺留分の基礎となる財産」とは、①被相続人が相続開始時に持っていた財産(遺産)に、②相続人への特別受益額及び③生前贈与した財産を加えた額から④被相続人の債務を差し引いて算定します(民法1029条1項)。つまり

   遺留分の基礎となる財産額=①遺産+②特別受益額+③生前贈与額(1年以内or悪意の贈与)-④債務

    ※悪意の贈与とは、遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したこと

(上記の注釈)
1 生前贈与した財産を加えて計算する
  死亡時からさかのぼって1年以内の贈与はもちろん、1年以上前の贈与であっても、被相続人と贈与を受けた人の両方が、その贈与によって相続人の遺留分を侵害することを知っていた場合(悪意の場合)、当該財産も加えて計算します。
2 勝手に売却した財産も加算する
  被相続人が財産を安く売ってしまった結果、双方が相続人の遺留分が侵害されることを予め知っていた場合、その値引き分は基礎財産に加算して計算します。
3:被相続人の借金は控除する
相続すべき財産に相続人の借金があった場合、その借金や債務は差し引かれます。

遺留分の計算例・その1(債務の処理)

【設題】
・相続人:子供3人(A,B,C)
・遺産総額:1億円。
・遺言の内容:全てをAに包括的に相続させる。
・相続開始前の1年間にAにした生前贈与額:5000万円
・債務:2000万円の場合

     遺留分の基礎となる財産額×遺留分割合(×遺留分権利者の割合)

・遺留分算定基礎となる財産 1億円 + 5000万円 - 2000万円  = 1億3000万円
・子供全員(A,B,C)の遺留分 1億3000万円 × 1/2(遺留分割合)= 6500万円
・子供1人遺留分 6500万円 × 1/3(法定相続分割合)   = 2166万円 
・そうずると、BとCは、Aに対し、2166万円ずつ(合計4332万円)の遺留分を侵害されたとして、その分を請求することができます。
・逆に、Aは、相続分1億円のうち、合計4332万円をBとCに支払うことになり、また、2000万円の債務もAが引き受けることになります。
※債務は、対外的には2000万円の債務が当然に3分割され、666万6666円ずつ負担します(債権者はBやCにその限度で請求できます。)が、対内的(相続人間では)Aが全てを負担することになります。
※B、Cの遺留分減殺金額は、債務額を考慮して決定されていますので、仮に、BとCが遺留分減殺請求権を行使した場合でも、対内的には債務全額をAが負担することになります。


遺留分の計算例・その2(対象者の遺留分を侵害してしまう場合)

【設題】(ぎょうせい・埼玉弁護士会編:遺留分の法律と実務199頁以下を参考)
・相続人:子ども3人(A,B,C)
・遺産総額:2000万円。
・遺言の内容:全てをBに相続させる。
・相続開始前の1年間にAにした生前贈与額:1憶円
・債務:なし
・Cが遺留分を侵害されたとして、AとBに請求した。

    遺留分の基礎となる財産額×遺留分割合(×遺留分権利者の割合)

・遺留分算定の基礎となる財産 3000万円+9000万円=1憶2000万円
子ども(A,B,C)の遺留分 1憶2000万円×1/2(遺留分割合)=6000万円
・子ども1人遺留分 6000万円×1/3=2000万円
(遺留分減殺請求権の行使と効果)
 民法1033条に、贈与と遺贈の減殺の順序の定めがあり、「贈与は、遺贈を減殺した後でなければ、減殺することができない。」と定められている。
 ということは、遺言による遺贈、相続を最初に減殺し、その後、生前贈与を減殺することになる(新しいものから古いものに順番に減殺)。
・本件では、Cは、まずBの遺言による相続分3000万円に対して遺留分を行使しなければなりません(順番としてBに行使してそれでも不足する場合にAに行使することになります。)。
・ところが、Bの遺留分は、2000万円で、Bに権利を全額行使するとBの遺留分を侵害してしまいます。その結果、Cは、Bに対し、1000万円分しか遺留分減殺請求権を行使することができないことになります。
・Cの遺留分減殺請求権は、残1000万円であり、遺言による相続・遺贈分だけでは、これを満たすことができなかったから、これを生前贈与分のうち1000万円分を減殺することになります。
・結論:Cは、Bに1000万円の、Aに1000万円の遺留分減殺を請求することができる(上記埼玉弁護士会の結論)。
※上記結論は、Bについて遺留分だけを保護するという考え方ですが、Bについて法定相続分までは保護するという考え方もあり得ます。その考え方ですと、Bは法定相続分(4000万円)までは相続していないから、Bに対して遺留分減殺請求をすることができないということになります。この点についての判例はなく、学説も固まっていないのが実情です。現時点で、一番有力と考えられる学説を紹介しました。

 

遺留分と生命保険金(生命保険金は遺留分の対象にはならないのが原則)

遺留分減殺請求権は、自由な遺言をしようとする方にとっては、その妨げになる場合があります。他方で、遺言者からの相続財産が生計の基本となっていた家族にとっては遺留分が唯一の防衛策であるという側面もあります。ただ、家族間のつながりが希薄化している社会情勢の変更により、遺留分制度が今後とも永続的に維持されるかどうかは微妙であるという考え方もあり得ます。
【生命保険を利用する場合】
・保険契約を締結して、被相続人の財産から保険料を支払って、死亡保険金受取人を指定した場合、原則として、その死亡保険金が遺留分算定の基礎となる財産額にはならないと考えられます。ですので、理屈の上では、一時払の終身生命保険に加入し、死亡保険受取人を保険契約者(遺言者・被相続人)の意中の人に指定しておく方法も考えられないではありません。特に、長年世話になった内縁の妻に対してそのような措置を講じておく価値はありそうです。
・しかし、判例は、このような場合、①保険金の額,②この額の 遺産の総額に対する比率,③保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,④各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して, 保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる 不公平が遺留分制度の趣旨に照らして看過できない程度に達しているかと基準に判断するものと考えられます。
・内縁の妻の場合でも、重婚的な内縁なのか、そうでないのか、法律婚が実質的な破綻関係にあるのかないのか、重婚的内縁がどの程度の期間であるのか、法律婚の配偶者の生活が窮乏しているのかそうでないのか等の基準によって、その不公平が看過される程度なのかそうでないのかの判断が分かれるとも考えらます。
・平成16年の判例の事案は、保険金の額は1000万円を超えず、遺産総額に対する比率も高いものではなかったため、固有の資産として扱われましたが、これらの事情が微妙な場合、どのような判断が下されるのかは、事案をみながら慎重に判断するものになると思われます。

【参考裁判例】
最高裁判所第1小法廷平成14年11月5日判決民集56巻8号2069頁の骨子
 自己を被保険者とする生命保険契約の契約者が死亡保険金の受取人を変更する行為は,民法1031条に規定する遺贈又は贈与に当たるものではなく,これに準ずるものということもできないと解するのが相当である。
 けだし,死亡保険金請求権は,指定された保険金受取人が自己の固有の権利として取得するのであって,保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく,これらの者の相続財産を構成するものではないというべきであり(最高裁昭和36年(オ)第1028号同40年2月2日第三小法廷判決・民集19巻1号1頁参照),また,死亡保険金請求権は,被保険者の死亡時に初めて発生するものであり,保険契約者の払い込んだ保険料と等価の関係に立つものではなく,被保険者の稼働能力に代わる給付でもないのであって,死亡保険金請求権が実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることもできないからである。
最高裁判所第2小法廷平成16年10月29日決定民集58巻7号1979頁の骨子
 被相続人を保険契約者及び被保険者とし,共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人とする養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないが,保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率,保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,特別受益に準じて持戻しの対象となる

 

民法・遺留分に関する条文

第8章 遺留分
(遺留分の帰属及びその割合)
第1028条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一  直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の3分の1
二  前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の2分の1
※この条文のポイントは2つ。①兄弟姉妹には、遺留分減殺請求権がないということ、②遺留分割合は、原則として法定相続分の2分の1であること
(遺留分の算定
第1029条  遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。
2  条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。
第1030条 贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする。
※1029条は、遺留分の算定の基礎を定めた重要な条文。「相続開始時の財産+贈与財産(特別受益財産を含む。)-債務」
※1030条は、贈与は、死亡前1年に限り算定する。ただし、悪意の場合は1年を超えても算定できる。ちなみに、相続人に対する贈与は特別受益となるから、何年前になっても算定することになる。
(遺贈又は贈与の減殺請求)
第1031条 遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。
(条件付権利等の贈与又は遺贈の一部の減殺)
第1032条  条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利を贈与又は遺贈の目的とした場合において、その贈与又は遺贈の一部を減殺すべきときは、遺留分権利者は、第1029条第2項の規定により定めた価格(家裁が選任した鑑定人の定めた価格)に従い、直ちにその残部の価額を受贈者又は受遺者に給付しなければならない。
(贈与と遺贈の減殺の順序)
第1033条  贈与は、遺贈を減殺した後でなければ、減殺することができない。
(遺贈の減殺の割合)
第1034条 遺贈は、その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(贈与の減殺の順序)
第1035条  贈与の減殺は、後の贈与から順次前の贈与に対してする。
(受贈者による果実の返還)
第1036条  受贈者は、その返還すべき財産のほか、減殺の請求があった日以後の果実を返還しなければならない。
(受贈者の無資力による損失の負担)
第1037条  減殺を受けるべき受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。
(負担付贈与の減殺請求)
第1038条 負担付贈与は、その目的の価額から負担の価額を控除したものについて、その減殺を請求することができる。
(不相当な対価による有償行為)
第1039条  不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、これを贈与とみなす。この場合において、遺留分権利者がその減殺を請求するときは、その対価を償還しなければならない。
(受贈者が贈与の目的を譲渡した場合等)
第1040条  減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。ただし、譲受人が譲渡の時において遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、遺留分権利者は、これに対しても減殺を請求することができる。
2  前項の規定は、受贈者が贈与の目的につき権利を設定した場合について準用する。
(遺留分権利者に対する価額による弁償)
第1041条  受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。
2  前項の規定は、前条第1項ただし書の場合について準用する。
※遺留分減殺請求権を行使した場合、実務上、1041条の弁償請求権により和解していることがほとんどである。
(減殺請求権の期間の制限)
第1042条 減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。
※相続の開始+遺言の内容を知った時から1年間の間に、受贈者又は相続人に遺留分減殺請求する旨を通知しなければならない。相続開始後、10年経過した場合は、知らなかったとしても遺留分減殺請求権は消滅する。
(遺留分の放棄)
第1043条  相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2  共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。
※遺留分の放棄は、家庭裁判所に申し立て、その許可を受ける必要がある(家裁は、本人の意向を確認すると許可する扱いである。)。遺留分放棄する旨を口頭で表明したり、書面に記載しても法規したことにはならない。
(代襲相続及び相続分の規定の準用)
第1044条  第887条第2項及び第3項、第900条、第901条、第903条並びに第904条の規定は、遺留分について準用する。

(1044条で引用されている条文)
(子及びその代襲者等の相続権)
第887条  
2  被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3  前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。
(法定相続分)
第900条  同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一  子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。
二  配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とする。
三  配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とする。
四  子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
(代襲相続人の相続分)
第901条  第887条第2項又は第3項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について、前条の規定に従ってその相続分を定める。
2  前項の規定は、第889条第2項の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。
(特別受益者の相続分)
第903条  共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2  遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3  被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。
第904条  前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。

 

 

遺留分の研究

【設題】
1 夫Aと妻Bは、20年以上連れ添った夫婦です。子どもが2人います。夫Aは、最近、スナックのママCに夢中になり、Bさんや子供のことを忘れてCさんの家に入り浸っています。そして、自分の全財産をCに遺贈するという遺言を作成しました。
2 夫Aと妻Bは、法律上結婚はしていますが、もう20年以上も別居しており、完全に冷め切っています。子どもはいません。Aさんのご両親も他界し、兄弟もいません。Bさんは、Aさんとの離婚に応じません。Aさんは、Bさんの生活費として月々10万円を渡しています。実は、Aさんは、Bさんと別居して5年後、Cさんという女性と懇意になり、以来15年Cさんと同居して実際の夫婦同様の生活をしています。Cさんとの間には、子どもも2人います。Aさんは、自分の全財産をCさんに遺贈するという遺言を作成しました。
【論点】
 設題の1と2は、いずれもAさんの遺言書の効力の問題です。設題1は、Aさん、Bさん夫妻が20年以上連れ添った場合、設題2は、Aさん、Bさんが不仲で20年間別居していた場合です。「Aさんが死亡した場合、Cさんに全財産を遺贈するという遺言書に対し、Bさん(設題1の場合その子供たち)が、死後1年以内にCさんに遺留分減殺請求をした場合、どうなるでしょう」という論点になります。
【論点に対する答え】
 遺留分減殺請求権は、当事者の法律的な身分関係のみを要件にしています。ですので、設題1でも設題2でも、同じような結論になります。
 設題1では、配偶者と子たちの法定相続分はいずれも2分の1ずつですので、Bさんが2分の1、子どもたち2名は各4分の1ずつです。遺留分割合は、法定相続分の2分の1ですので、妻Bさんの遺留分割合は4分の1、子どもは各8分の1ずつになります(これらを合計すると、Bさんたちは2分の1の遺留分割合)。Bさんたちが、Cさんに遺留分減殺請求権を行使すると、Aさんの遺言にかかわらず、全財産の2分の1を取り戻すことができます。
 設題2でも、妻BさんのほかにAさんの法定相続人はいませんので、全財産を相続できます。遺留分割合は法定相続分の2分の1ですので、Bさんが、Cさんに遺留分減殺請求権を行使すると、Aさんの遺言にかかわらず、全財産の2分の1を取り戻すことができます。
【結論の妥当性】
 設題1について、遺留分減殺請求権をBさんたちに行使させることについて、違和感を持つ人は少ないと思います。遺留分減殺請求権がなかった場合、Bさんは、長年住み慣れた家を追い出されるかもしれません。ところが、設題2については、「Bさんに遺留分減殺請求権を行使させる必要はない」という方も多いのではないでしょうか(遺言書がない場合は、Cさん家族が全く保護されませんので、Aさんは絶対に遺言書を作成しておくべきです。)。しかし、現在の民法上は、設題2についても、2分の1の割合による遺留分減殺請求権の行使を認めています。
【問題の所在】
 設題2のAさん、Cさんの立場に立つと、「Bさんの遺留分減殺請求権を封じる方法はないものか。」と考えたくなるでしょう。その方法を、考えていきましょう。
【弱い方法・付言事項】
 遺言書に、付言事項として「遺留分減殺請求権を行使しないでほしい」旨を記載する方法があります。遺言者は、遺留分減殺請求権を法的に封じることはできませんが、相手の心情に訴えるものです。実際の訴訟では、遺留分減殺を主張する原告が、遺言書を甲1号証として提出することが多いですので、裁判所の目からは、この原告は、遺言者からの遺留分減殺請求権を行使しないでほしいという嘆願にもかかわらず、その権利を行使した当事者であるということが印象付けられます。そうであっても、裁判所は、法律に反した判決を出すことができませんので、結果は変わりませんが、相手方の心情を動かす可能性もありますので、ダメ元で付言事項を付する方法も考えられます。