事実実験公正証書

A.公証人は、直接見聞した事実を記載した「事実実験公正証書」を作成することができます。事実実験公正証書とは、公証人が見分(実体験)した結果を公正証書に正確に記載するもので、証拠を保全する機能を有し、権利に関係のある多種多様な事実を対象とします。
  
 

A.例えば、① 特許を申請するほどではないが、将来、特許を取得する者から、特許権を理由に販売差止め請求を回避する目的(先使用権の主張)で、既に使用していたことを証明する先使用権保全のための事実実験公正証書、② 相続人から、相続財産把握のため被相続人名義の銀行の貸金庫の中身を点検・確認してほしいとの嘱託を受け、貸金庫を開披し、その内容物を点検する事実実験公正証書、③ 抽選が適正に行われたことを担保するため、抽選の実施状況を見聞する事実実験、④ 土地の境界争いに関して現場の状況の確認・保存に関する事実実験、⑤ 株主総会の議事進行状況に関する事実実験、⑤ 供述を証拠保全するための陳述録取事実実験、⑥ 指紋採取が適正に行われたことを明らかにする指紋採取事実実験(外国文認証等をご覧ください。)など様々なものがあります。  事実実験をどのように実施し、どのような内容の公正証書を作成するかは、当該対象物により異なりますので、具体的には嘱託する公証人と事前に十分打合せをすることが必要です。

 

A. 尊厳死とは、回復の見込みのない末期状態の患者に対して、生命維持治療を差し控え又は中止し、人間としての尊厳を保たせつつ、死を迎えさせることをいいます。近代医学は、患者が生きている限り最後まで治療を施すという考え方に従い、少しでも長く生かすべく最後まで治療を施す治療が行われてきました。しかし、「単に延命を図る目的だけの治療が、果たして患者の利益になっているのか」、「むしろ患者の尊厳を害しているのではないか」という声が多くなってきました。さらに、患者本人の自己決定権を尊重するという考えが重視される傾向が強くなりました。尊厳死は,現代の延命治療技術がもたらした過剰な治療を差し控え又は中止し、単なる死期の引き延ばしを止めることであって許されるとの考え方が優勢になりつつあります。
  医学界などでも、尊厳死の考え方を積極的に容認するようになり、また、過剰な末期治療を施されることによって近親者に物心両面から多大な負担を強いるのではないかという懸念から、自らの考えで尊厳死に関する公正証書作成を嘱託する人も出てくるようになってきました。
 「尊厳死宣言公正証書」とは、嘱託人が自らの考えで尊厳死を望む、すなわち延命措置を差し控え、中止する旨等の宣言をし、公証人がこれを聴取する事実実験をしてその結果を公正証書にする、というものです。
  しかし、尊厳死宣言がある場合に、自己決定権に基づく患者の指示が尊重されるべきものであることは当然としても、医療現場ではそれに必ず従わなければならないとまでは考えられていないこと、治療義務がない過剰な延命治療に当たるか否かは医学的判断によらざるを得ないという側面があることも事実です。尊厳死の宣言書を医師に示したことによる医師の尊厳死許容率は、9割を超えています。尊厳死を迎える状況になる以前に、担当医師などに尊厳死宣言公正証書を示す必要がありますので、その意思を伝えるにふさわしい信頼できる肉親などに尊厳死宣言公正証書をあらかじめ託しておかれるのがよいのではないかと思われます。

         尊厳死宣言公正証書
  本公証人は、尊厳死宣言者・○○○○の嘱託により、平成○○年○月○日、その陳述内容が嘱託人の真意であることを確認の上、宣言に関する陳述の趣旨を録取し、この証書を作成する。
第1条(尊厳死宣言)
  私こと○○○○は、私が将来病気に罹り、それが不治であり、かつ、死期が迫っている場合に備えて、私の家族及び私の医療に携わっている方々に以下の要望を宣言します。
1 私の疾病が現在の医学では不治の状態に陥り既に死期が迫っていると担当医を含む2名以上の医師により診断された場合には、死期を延ばすためだけの延命措置は一切行わないでください。
2 しかし、私の苦痛を和らげる処置は最大限実施してください。そのために、麻薬などの副作用により死亡時期が早まったとしてもかまいません。
第2条(家族の了解)
  この証書の作成に当たっては、あらかじめ私の家族である次の者の了解を得ております。
     妻   ○ ○ ○ ○   昭和  年 月 日生
     長男  ○ ○ ○ ○   平成  年 月 日生
     長女  ○ ○ ○ ○   平成  年 月 日生
  私に前条記載の症状が発生したときは、医師も家族も私の意思に従い、私が人間として尊厳を保った安らかな死を迎えることができるよう御配慮ください。
第3条(捜査関係者へのお願い)
  私のこの宣言による要望を忠実に果して下さる方々に深く感謝申し上げます。そして、その方々が私の要望に従ってされた行為の一切の責任は、私自身にあります。警察、検察の関係者におかれましては、私の家族や医師が私の意思に沿った行動を執ったことにより、これら方々に対する犯罪捜査や訴追の対象とすることのないよう特にお願いします。
第4条(尊厳死宣言者の真意)
  この宣言は、私の精神が健全な状態にあるときにしたものであります。したがって、私の精神が健全な状態にあるときに私自身が撤回しない限り、その効力を持続するものであることを明らかにしておきます。

A.事実実験公正証書
  本公証人は、○○機械設計を営む○○(東京都大田区○○丁目○番○号、昭和○年○月○日生。以下「嘱託人」という。)の嘱託に基づき、同人が本公証人役場に持ち込んだ機器を見分した結果について、次のとおり本証書を作成する。
第1 嘱託の趣旨
   嘱託人は、○○等の通気度を測定する試験機(以下「本試験機」という)を製作した。従来の同機種では、①試験片の○○における横漏れの問題と②測定(計測)時間がかかりすぎる問題があった。
   そこで、嘱託人は、横漏れ対策として試験片の締め付け部の外周に○○方法を採って、測定部の横漏れをなくした。その結果、通気度を正しく計測することができるようになり、また、この方法によると、試験片を強く締め付ける必要性がないことから、① 装置の強度問題が解消され、② 試験片も傷まず、③ 再測定も可能となって、信頼性が向上し、④ 素材条件によっては○○が不要となる(メンテナンスが容易となる。)利点がでる。また、計測時間の短縮の問題も、⑤ 新たに圧力の制御方法を開発し、その開発された○○を本試験機に取り付け、さらに、⑥ 試験片の圧力による膨らみを押さえる○○を取り付け、⑦ 測定部内側の空間部を迅速に充填する○○を設けたことにより、○○秒以内で計測することが可能となった。嘱託人は、本試験機について、当面、特許申請をするつもりはないが、先使用権を確保するため、本試験機の構造等についての保全措置を講じておきたい。よって、その保全の事実を見分し、公正証書を作成されたい、というのである。
第2 見分の結果
   本公証人は、平成○○年○月○日午前○時ころから同日午前○時ころまでの間、当公証人役場において、嘱託人から、嘱託人作成の説明書に基づき本試験機の指示説明を受けたが、その結果は、次のとおりである。
1 嘱託人が持ち込んだ本試験機の形状及び同機についての指示説明内容は本証書添付写真○ないし○のとおりである。
2 嘱託人は、本試験機の寸法は本証書添付の「装置全体図」と題する書面のとおりであり、各部の名称は、同添付の「各部の名称」(正面図、背面図、側面図の3通)、その各部の機能、目的等は同添付の「○○構成図の部品説明」と各題する書面のとおりである旨説明した。
3 嘱託人は、本試験機の開発目的について、本証書添付の「本装置の開発目的」と題する書面のとおり説明した。
4 嘱託人は、上記第1嘱託の趣旨欄の①試験片のクランプにおける横漏れ問題の対策として、本証書添付の「横漏れ防止○○図」と題する書面記載の方法を考案し、横漏れを防止することができた旨説明し、本試験機の当該部を指示した(本証書添付写真○)。そして、嘱託人は、本試験機の当該部の構造等は本証書添付の「測定の○○図」記載のとおりとなっている旨説明した。
5 嘱託人は、本試験機の作動方法について、本証書添付の「作動説明(順序)」と題する書面記載のとおりの説明し、自ら同記載の順序に従って、本試験機を操作したところ、同機は、その通り作動した。
第3 嘱託人は、印鑑証明書により人違いでないことを証明させた。
  以上の事項を嘱託人に閲覧させたところ、その正確なことを承認して次に署名捺印した。
  (写真及び図面等は省略)

 

A.訴訟において、高齢者の供述を求めようとしても、高齢者が裁判所に赴くことができなかったり、死亡してしまう場合があります。そこで、高齢者が元気なうちに、公証役場で公証人が高齢者から供述を聴き取り、これを事実実験公正証書とし、後に提出すべく証拠保全することがあります。また、取り壊される家の内部の様子を取り壊される前に公証人に立ち会ってもらい、写真を撮影し、その撮影した写真が取り壊される前のものであることを供述し、これを公正証書化することがあります。さらに、製品の受領を否認されるおそれのある相手方に対し、公証人を立ち会わせた上で、正当な手続で発送したことを証拠保全することも考えられます。
  このように事実実験公正証書は、訴訟における証拠の保全、争われる可能性のある事実の証拠化など色々な場面での利用が考えられます。

A.あります。
  銀行との間で貸金庫契約を締結していたが、使用料が滞納となり、銀行が貸金庫契約を解約した場合、その貸金庫を銀行が預かっている副鍵を用いて開き、その内容物を別途保管又は保管困難な場合は一般に適当を認められる方法で処分又は廃棄することになります。この金庫を開く手続が適正に行われていることを証拠保全するために、公証人が立ち合い、その手続を見分する手続が貸金庫開扉のための事実実験公正証書です。
  相続人間で、被相続人名義の銀行の貸金庫開扉に当たり、開扉が適正に行われたことを示すために、貸金庫開扉の公正証書を作成することもあります。ただし、銀行から相続人全員の立合い又は貸金庫開扉の承諾書を求められることになると思われます(公正証書遺言で遺言執行者に貸金庫開扉の権限を与えた場合は開扉できることになると思われます。)ので、当該銀行との打合せをお願いします。

【使用料滞納による貸金庫開扉の公正証書例】
平成29年第  号
  貸金庫開扉点検に関する事実実験公正証書
 本公証人は、嘱託人・株式会社〇〇銀行の嘱託に基づき、〇〇市〇区〇〇〇三丁目〇-〇所在の同銀行〇〇支店に設備してある貸金庫(保護函)の開扉及び蔵置品の点検、処理等に関し、平成29年〇月〇日、その現場に立ち会い目撃した事実を録取して、この証書を作成する。
1 嘱託の趣旨は、嘱託人は、前記支店の貸金庫(保護函)の使用者・〇〇〇〇に対し、「貸金庫(保護函)規定」に基づき、平成〇年〇月から保護函(〇種〇〇型〇〇〇号)を使用させていたところ、上記使用者は、平成27年〇月以降の貸金庫使用料を支払わず、かつ、貸金庫の明渡し及び蔵置品の引取手続も執らないため、嘱託人の銀行業務の運用に特段の支障、損害を生じさせている。そこで、嘱託人は、前記規定第〇〇条に基づき、保管中の副鍵を使用して同保護函を開扉し、その蔵置品を点検し、一定の場所に格納する処置を実行したいので、その現場に立ち会い目撃した事実を録取した公正証書を作成されたいというにある。
2 嘱託人は、
⑴ 「貸金庫(保護函)規定」
⑵ 「貸金庫(保護函)借用申込書」
⑶ 「貸金庫使用料集中記帳不能明細表(兼徴収管理表)」(〔顧客名「〇〇〇〇〇〇〇」のもの〕・平成〇〇年〇月〇日付、同年〇月〇日付、平成〇〇年〇月〇日付及び同年〇月〇日付)
⑷ 「平成〇〇年〇月〇日付け催告書」(ただし、日本郵便株式会社による書留内容証明書として差し出されたことを証明する旨の印字押印があるもの)
⑸ 「配達証明郵便封筒」(「保管期限経過のためお返しします」との押印あるもの)
の各写しを提出したので、本証書末尾に添付する。
3 本公証人は、平成29年〇月〇日午後〇時頃、前記支店の貸金庫の設置場所に赴き、同支店の次長・〇〇〇〇が次の処置を実行するのを目撃した。
⑴  同次長は、銀行の保管する所定の副鍵を封緘した封袋を本公証人に提示し、その封印状況に異状のないことを告げ、本公証人もこれを認めた。
⑵  次いで、同次長は、同封袋を開き、前記使用者の副鍵を取り出し、これを使用して前記使用者の貸金庫を開扉し、蔵置品を点検した。その種類及び数量は、末尾添付の強制解約貸金庫の内容物明細表のとおりである。
⑶ 同業務役は、全ての蔵置品を〇〇銀行の角形2号の封筒に一括梱包し、強制解約貸金庫の内容物明細表(所定欄に契約者名、保護函種類・番号、内容物明細、公証人氏名命、立会代理人(行員)欄に所定事項の記載のあるもの)を貼付し、同業務役及び公証人私印にて封印し、同銀行内に保管した。