任意後見契約

任意後見契約についてのFAQ(質問箇所をクリック)

A.任意後見契約とは、ご本人の判断能力が残されている間に、信頼できる個人又は法人(社会福祉法人など)に対し、本人の判断能力が衰えた場合に「任意後見人」になってもらい、財産の管理、介護サービス提供契約の締結、介護費用の支払、医療契約の締結、入院契約の締結などを委任する契約のことをいいます。任意後見人を自分で選任することができるところに大きな特徴があります。
  任意後見契約は、成年後見制度の2本柱のうちの一本です。成年後見制度のもう一つの柱は、法定後見制度です(詳しくは「成年後見制度」、「法定後見制度」の項目をご覧ください。任意後見契約における任意後見人は、ご本人の意向に沿って選任されていますので、その裁量権が広く、ご本人が望む形で介護を受けたりすることが可能です。例えば、施設には入らずに住み慣れた自宅で介護を受けたいとお考えの場合や、判断能力が衰えても大好きなオペラ鑑賞だけは定期的に続けていきたいと考えた場合、できる限りご本人の意向に沿った形にすることができます(ご本人がどれだけオペラが好きなのかは、本人の周囲の人にしか分かりません。第三者から見ると、介護タクシーを使って高額なオペラ鑑賞は無駄遣いにしか見えなくとも、ご本人にとってとても大切な宝物である場合もあるでしょう。「幸せであるかどうか」は第三者には分かりません。もちろん、医学的な観点、経済的な観点から制約を受けることはありますが、できる限りご本人の意向に沿った形で介護を受けることが可能になります。)。また、ご本人が遺産分割の当事者になり、ご本人が受け取れる相続分をかわいい甥に譲渡したいときなど、その意向に沿った協議をすることも可能になります。
  法定成年制度は、後見人が裁判所により職権で選任する関係上、その裁量権はやや狭くなる傾向になると考えられます(浪費であるなどと非難されることをおそれ、事なかれ主義的な介護しかできないこともあります。)。前述のように、オペラ鑑賞などを浪費と判断されたり、住み慣れた自宅ではなく気の進まない施設での生活を強く勧められ、断り切れず住み慣れた自宅から引き離されることももあります。
  任意後見契約が、万能の契約というわけではありませんが、ご本人が最期まで、その人らしく過ごしていけることを支援する強力なツールといえると思います。

A.成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などのために判断能力が不十分な方を保護し支援する制度です。判断能力が不十分な方は、不動産や預貯金を管理したり、介護サービス契約、施設入所契約、入院契約の締結、遺産分割協議をすることが困難な場合があります。このような場合に、本人に代わって契約したり、助言、同意をする制度です。また、悪徳商法から本人を守るものでもあります。
  成年後見制度には、大きく分けて①法定後見制度と②任意後見制度の2つがあります。法定後見制度はさらに「法定後見」「保佐」「補助」の3つに分かれています。簡単にいうと、判断能力の衰え方が重度の方が「法定後見」、中程度の方が「保佐」、軽度の方が「補助」になります。
【法定後見制度】(家庭裁判所の関与が大きい)
  法定後見:判断能力の衰えが重度の方(判断能力が欠けているのが通常の状態の方)の場合、本人は「被後見人」となり、家庭裁判所から選任を受けた「後見人」が代理人となって、介護契約、入院契約を締結します。本人の不動産を売却したり、遺産分割協議をすることもあります。本人がした契約は、被後見人によって取り消されることがあり、これによって悪徳商法から本人が保護されます。反面、日用品の購入などは、本人の自己決定権を守るために取消しはされません。
  保佐:判断能力の衰え方が中程度の方(判断能力が著しく不十分な方)の場合、本人は「被保佐人」となり、家庭裁判所から「保佐人」が選任されます。本人は、保佐人の同意がなければ、借金をしたり、保証人になったり、不動産を売買することができません。本人が、勝手にこれらの契約を締結すると、保佐人から取り消されることがあります。家庭裁判所の審判により、保佐人に特定の事項について代理権を付与することもできます(本人の同意が必要です。)。日用品の購入は、被保佐人が自由に決定でき、取消しもされません。
  補助:判断能力の衰え方が軽度の方(判断能力が十分とはいえない方)の場合、本人は「被補助人」となり、家庭裁判所から「補助人」が選任されます。申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める特定の行為について、補助人の同意が必要になります。また、本人の同意を前提に、家庭裁判所から特定の事項について代理権を付与されることもあります。日用品の購入は、被補助人が自由に決定でき、取消しもされません。
【任意後見制度】(家庭裁判所の関与が小さい)
  任意後見契約は、「任意後見人」を当事者が自由に選任できる点が法定後見制度と異なります。ただし、任意後見契約が発動するには、必ず「任意後見監督人」の選任を家庭裁判所に申し立てなければなりません。任意後見人は、定期的に任意後見監督人に報告します。

成年後見制度に対する批判

最近、成年後見制度に対する批判を耳にします。
財産が一定額以上(例えば、1000万円以上)有する本人(被後見人)は、原則として「後見制度支援信託」を利用しなければならず、これを利用しない場合、家庭裁判所が職権で後見監督人を付するように運用(この場合、後見監督人に対し月額2万円以上、年額24万円以上の報酬の支払をしなければならない。中には、月額8万円という例も存在します。これらは全て裁判所が決定します。)しているようです。
ちなみに、後見制度支援信託は、本人が日常生活で使用する分を除いた金銭を、信託銀行等に信託することで、後見人による本人の財産の横領を防ぐ制度です。信託財産を払い戻したり、信託契約を解約したりするには、家庭裁判所の指示書が必要になり、後見人が勝手に払い戻しや解約をすることができなくなります。家庭裁判所は、成年後見の申立てがあった場合、専門職後見人を選任し、後見制度支援信託を設定し、その報酬として20万円~30万円(以上)を本人の財産から受領したのち、専門職後見人を辞任します。
ですので、家庭裁判所は、申立人に対し、後見制度支援信託の利用する(一時的な報酬額20万円~30万円の支払)か、後見監督人を選任して恒常的にに月額2万円以上を支払わせるかの選択を迫る運用をしているという批判があります。
後見制度支援信託は、後見人の不正(横領等)を防止する上で、大きな力にはなりますが、① 本人や親族後見人が自由にお金を使えなくなる(自己決定権の尊重という理念に反する)点、② 後見制度支援選択を利用しない場合、生涯にわたり任意後見監督人に相当額の報酬を支払わなければならないこと、など批判もあります。まじめに後見人を務めている親族の方は、自分が疑われていると感じられることもあると思います。
成年後見制度が作成される以前の「禁治産制度に後戻りしている」などの批判もありそうです。

そもそも、法定後見の申立てをした理由は、継続的に法定後見を理由したいという趣旨ではなく、実家の不動産を売却したいという目的のためだけという一時的な理由によるものも存在します。しかし、仮に、一時的な利用であっても、いったん法定後見制度が発動されると、取り下げることはみとめられておらず、本人の判断能力が回復しない限り、生涯「被後見人」といして、財産を管理され、後見制度支援信託の利用又は後見監督人の報酬を支払い続けることになります。いったん申し立てると後戻りすることができない硬直性も批判の対象になっています。

家庭裁判所が、上記のような運用をする背景には、後見人による本人の財産の横領、不正使用が頻発し、監督機関である家庭裁判所に対する批判が大きかったことが挙げられます。裁判所の人的資源は限られており、後見制度支援信託を活用することによって、省力化を図ろうという意図は理解できないではありません。しかし、まじめに後見をしている親族からは、本人の自己決定権の尊重、本人の財産確保という観点から、少なからぬ不満が出てくることは、容易に予想されます。
任意後見契約は、後見人を自ら選任できること、契約内容もある程度自由に構築できることから、法定後見制度よりも柔軟な対応が可能です。公証役場への手数料も後見制度支援信託の報酬額よりもずっと低廉です(任意後見監督人に対する報酬は発生しますが、このことを考慮しても、自己決定権の尊重を考えると、法定後見制度よりも自由度が高いといえます。)。

任意後見制度も、任意後見監督人の選任を受けると、任意後見監督人報酬支払義務が発生します(月額2万年~3万円)。また、任意後見制度も本人の財産の保全・管理に目的がありますので、法定後見ほどではありませんが、本人が財産を自由に処分することができなくなります。そこで、ご本人の判断能力が健全なうちに、信頼できるご家族などにご本人の財産を信託する認知症対策型の家族信託を締結することも考えられます。この制度は、ご本人が高級介護施設に入所したいという希望がある場合や、お孫さんの入学金をプレゼントしたいなど家族のために役立つことを目的に財産を処分することも可能になります。

 

A.法定後見制度は、①後見、②保佐、③補助の3つに分かれます。
  ご本人の判断能力が、①欠けているのが通常の状態の場合(重症)が法定後見(以下、単に「後見」という。)、②著しく不十分な場合(中程度)が保佐、③十分とはいえない場合(軽度)が補助です。
  申立ては、誰でもできるわけではありません。本人、配偶者、四親等以内の親族、検察官、市町村長が申立人になれます。本人の住所地の家庭裁判所に後見、保佐又は補助開始の審判を申し立てます。期間と費用はケースバイケースですが一般的には期間は約2か月から4か月くらい、費用は切手、印紙代で5,000円~1万円くらいです。そのほか戸籍等の収集や診断書の費用も必要です。診断書だけでは本人の判断能力を識別できない場合、裁判所が鑑定をすることもあり、鑑定費用が5~10万円かかります。申立てを弁護士や司法書士に依頼することもできますが、別途報酬がかかります。
  被後見人等になっても、戸籍に登載されることはありません。選挙権も制限されません。ただし、医師、税理士等の資格、取締役、監査役、公務員等の地位を失います。
  成年後見人などの権限は、東京法務局が管理するコンピュータ・システムによって登記し、登記官が、①登記事項証明書、あるいは②登記されていないことの証明書を発行することになっています。本人が被後見人になっているかどうかは、重大な個人情報ですので、登記事項証明書及び登記されていないことの証明書は、本人、成年後見人など限られた人しか申請できません(プライバシーの尊重)。

【法定後見のイメージ】
  太郎さんは、3年ほど前から物忘れがひどくなり、単独では社会生活を送ることができなくなりました。日常生活においても家族の判別ができなくなり、回復の見込みがなく、1年前から入院しています。
  ある日、太郎さんの兄(独身)が死亡し、太郎さんが財産を相続することになりました。兄は大きな負債を抱えており、弁護士会の法律相談に赴き、太郎さんの妻が、弁護士の助言を受けながら相続放棄のために後見開始の審判を家庭裁判所に申し立てました。鑑定を経て、太郎さんについて後見が開始され、家庭裁判所から妻が後見人に選任されました。妻は、太郎さんの法定代理人(後見人)として兄の相続に関し、相続放棄の手続をしました。
【保佐のイメージ】
  花子さんは、1年前に夫を亡くしてから一人暮らしをしていました。以前から物忘れがありましたが、最近症状が進み、買い物の際に1万円札を出したのか、5千円札を出したのか分からなくなることがあり、日常生活に支障がでるようになりました。そこで、長男家族と同居するようになりました。隣の県に住んでいた長男は、花子さんが住んでいた自宅が老朽化していたため、この際、自宅の土地、建物を売却したいと考え、保佐開始の審判の申立てをし、併せて土地、建物を売却すること、年金振込口座預金の払戻しをすることについて代理権付与の申立てをしました。家庭裁判所の審理を経て、花子さんについて保佐が開始され、長男が保佐人に選任されました。長男は、家庭裁判所から居住用不動産の処分及び返金振込口座預金の払戻しに関する代理人付与の許可の審判を受けました。
【補助のイメージ】
  松子さんは、最近、同じものを重複して買ってしまうなど日常生活での失敗が目立つようになり、長女が留守の間に訪問販売員から必要のない高額の呉服を何枚も購入してしまいました。困った長女が家庭裁判所に補助開始の審判の申立てをし、併せて松子さんが10万円以上の商品を購入することについて同意権付与の審判の申立てをしました。家庭裁判所の審理を経て、松子さんについて補助が開始されて同意権が与えられました。その結果、松子さんが長女に断りなく10万円以上の商品を購入してしまった場合、長女がその契約を取り消すことができるようになりました。
【親族以外の第三者が成年後見人に選任された場合のイメージ】
  のび太さんは、10年前に統合失調症を発症し、5年前から入院しています。障害認定1級を受け、障害年金から医療費が支給されています。のび太さんのお母さんは、半年前に亡くなり、縁者は遠方に母方の叔母がいるだけです。亡母が残した自宅やアパートを相続しましたが、その管理を行う必要があるため、母方叔母は、のび太さんについて後見開始の審判の申立てをしました。
  母方叔母は、遠方に居住しているため成年後見人になることは困難であり、不動産登記とその管理であることから司法書士がのび太さんの成年後見人に選任され、併せて社団法人成年後見センター・リーガルサポートが成年後見監督人に選任されました。

A.自分で任意後見人を選べることですが、さらに法定後見制度よりも任意後見人の裁量権が広く、本人の意向に沿った介護が受けられることが特徴です。
  例えば、①介護を施設ではなく自宅で受けたい、②施設にしても故郷に近いあの施設に入りたい。高級な施設に入りたい。③本人が大好きな観劇を毎月1回は見続けたい。④気に入った介護士、ヘルパーから介護を受けたい。⑤自分は遺産はいらないので、相続分を譲渡し、気に入った姪にその遺産をあげたい。⑥介護タクシーを利用して大好きな旅行に行きたい、⑦精神的な支えである宗教法人に寄付をしたい、⑧年に1度は、遠くにいる孫を呼び寄せたいのでその費用を支払いたい。このような場合、任意後見人は、本人の意向に沿った柔軟な対応が可能になります(ただし、合理的な範囲を大きく逸脱することはできません。)
  法定後見であっても、親族に近い方が後見人になった場合には、上記に近い運用ができる可能性はあります。しかし、選任は、最終的に裁判所の権限ですし、裁判所からの監督も直接的で後見人のできることが限られたものになることもあります。
  頼れる親戚が近くにいない場合や夫婦ともに高齢である場合、第三者後見人が選任されることもなりますが、法定後見ですと定型的な運用しかできません。しかし、任意後見契約ですと、受任者(任意後見人)に本人の要望を伝えておけば、意向に沿った介護を受けることができます。また、任意後見契約・移行型を締結した場合、判断能力が存在する段階から本人の意向に沿った財産管理、身上介護を受けることができ、判断能力が衰えた段階になり、任意後見契約が発動になってもスムーズに移行することができます。また、法定後見では、5万円から10万円の鑑定費用が必要になりますが、任意後見契約に移行する場合は、診断書だけで判断できることが多く、鑑定費用を節約できるメリットがあります。任意後見契約では、本人の行為能力が奪われるわけではないので、意思能力があれば、本人自身が法律行為をすることもできます。ケースバイケースですが、遺言をすることができることもあります。
  ①信頼できる「この人」に絶対に後見人になってほしい場合、②自分の趣味を生かした介護を受けたい場合、③身寄りがないけれども、自分らしい老後を過ごしたい場合には、任意後見契約は極めて有用というべきです。
  他方で、①夫婦のうち、一方はしっかりしており、法定後見であっても後見人になることが明らかな場合、②介護について特段の希望がない場合、③悪徳商法の被害にあいそうな方、浪費壁のある方で取消権が必要な場合(一人でデパートに赴き不必要な高額商品を購入してしまった場合)などは、法定後見によることが合理的といえるでしょう。最近では、一定の財産がある場合、家庭裁判所から「後見制度支援信託」の利用を強く勧められることがあります。この制度により、親族後見人による横領のリスクが大幅に下がることが期待できます。ただし、後見制度支援信託に対しては、制度が硬直的であるという批判もあります。
  ご本人が元気なうちに任意後見契約を締結するか、家族間で信託契約を締結しておくことが肝要です。

 

A.任意後見契約には、実務上、①移行型、②即効型、③将来型という3つの類型があります。このうち最も利用されているのが「移行型」という類型です。任意後見契約全体の8割強が「移行型」を利用しています。
  移行型は、通常の任意後見契約に加え、ご本人の判断能力に衰えが見られない時期であっても財産管理契約及び身上介護契約を付している点が主な内容です。判断能力には問題がないが、体が不自由で外出が困難な場合、受任者に本人の代理人として預貯金の預入れ、払戻し、入院契約、介護契約をするものです(委任契約ともいいます。受任者に対する監督はご本人になります。)。その後、判断能力が衰えた場合、受任者において、任意後見監督人の選任を家庭裁判所に申し立てて、任意後見監督人が選任された時点で委任契約が終了し、同時に、任意後見契約に移行します。受任者がそのまま任意後見人になります。
  移行型の長所は、委任契約から任意後見契約にスムーズに移行することができるところです。反面、本人の判断能力が衰えた場合でも受任者が任意後見監督人選任の申立てをしないまま、長期間本人の財産を管理し、その管理が不適切であったために本人に損害を与えてしまうリスクがあります。また、任意後見監督人の監督を嫌ったり、任意後見監督人への報酬支払を忌避するなどの目的で、任意後見監督人選任申立てが遅れてしまうともいわれています。学者からは批判を浴びています。
  しかし、委任契約のときから、継続的に本人の意向を聴取し、財産を把握しながら代理行為が行えるので、ご本人にとっても、受任者・任意後見人は使い勝手が良い制度といわれています。上記濫用の危険がなければ、本人の自己決定権やノーマライゼーションの理念に沿うものといえるでしょう。

A.任意後見契約の即効型は、任意後見契約を締結し、後見登記がなされた後、直ちに家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立てを行い、その選任により任意後見契約が発動するケースです。前提として、ご本人の判断能力がまだ残されていることになります。判断能力が完全に衰えてしまっては契約の締結が困難ですので、本人の判断能力が少し衰えているけれども、それが重大とまではいえない場合が適応になります。①成年後見制度の利用に当たって、自己決定権を重視したい場合、②法定後見制度による、補佐、補助などの審判を受けたが、裁判所から選任された保佐人や補助人に不満で、自らが選任した任意後見監督人によりサポートを受けたい場合などが考えられます。任意後見契約締結時の判断能力の衰えがどの程度であるのかが大きく問題になることがあります。実例としては少な目です。
  任意後見契約の将来型は、現時点では判断能力の衰えがなく、将来、本人の判断能力が衰えた場合に備えて任意後見契約を締結する場合です。立法担当者が予定していた本来の任意後見契約といえます。任意後見契約の締結と実際の任意後見人の選任申立てとの間に相当の時間が経過していたり、任意後見契約の発動がないまま一生を過ごす場合も多いと思われます。将来型は、判断能力の衰えも身体能力の衰えもなく、本人が自律的に判断・行動できる場合に有用な制度です。ただし、本人の判断能力が衰えた場合、そのことを把握できる立場の人が存在しない可能性があることから、任意後見契約の発動が遅れるリスクがあります。日常的にサポートする態勢が整っており、身上介護や財産管理などの契約は自身でできるけれども、念のため将来に備えて将来型の任意後見契約を締結しようとする場合が考えられます。任意後見契約全体では1割前後の利用実態です。  

A.任意後見契約の締結に必要な書類は、以下のとおりです。  ※自然人とは、法人でなく、生物学的な人間を指す法律用語です。
【ご本人】(委任者)(自然人)
① 本人の戸籍謄本
② 本人の住民票
③ 本人の印鑑登録証明書+実印
(任意後見人候補者・受任者側は次の4つの場合に分かれます。)
【任意後見人候補者】(受任者が自然人)(受任者が出席して契約する場合)
① 受任者の住民票
② 受任者の印鑑登録証明書+実印又は運転免許証、写真付住基カード、写真付個人番号カードorパスポート(どれか一つ)+認印

【任意後見人候補者】(受任者が法人)(法人代表者が出席して契約をする場合)
① 受任者の資格証明書(商業登記簿謄本又は代表者事項証明書)
② 受任者の法人印鑑登録証明書 +法人実印+法人代表者の本人確認書類(運転免許証、写真付住基カード、写真付き個人番号カード、パスポートどれか一つ)
【任意後見人候補者】(受任者が法人)(代理人が契約をする場合)
① 受任者の資格証明書(商業登記簿謄本又は代表者事項証明書)
② 受任者の法人印鑑登録証明書
③ 受任者の法人実印の押捺してある公正証書作成依頼の委任状  (委任状の書式等はこちら)
④ 代理人の本人確認書類(運転免許証、写真付住基カード、写真付き個人番号カード、パスポートどれか一つ)+認印
【任意後見人候補者】(受任者が自然人)(代理人が契約をする場合)
① 受任者の住民票
② 受任者の印鑑登録証明書
③ 受任者の実印の押捺してある公正証書作成依頼の委任状 (委任状の書式等はこちら)
④ 代理人の本人確認書類(運転免許証、写真付住基カード、写真付き個人番号カード、パスポートどれか一つ)+認印

A.任意後見契約公正証書の作成手数料(例)は、以下のとおりです。枚数等によって変わってきます。出張することもできます。ただし、その場合の手数料は、約1.5倍になります。
例1・【即効型、将来型】(枚数が8枚である場合)
 ① 任意後見契約            1万1000円(後見報酬額によってはこれと異なる場合があります。)
 ② 印紙代                 2600円
 ③ 登記嘱託料               1400円
 ④ 書留郵便                約540円
 ⑤ 紙代(8枚×4-4)×250円      7000円
            合計       2万2540円

例・2【移行型】(枚数が13枚である場合)
 ① 委任契約+任意後見契約       2万2000円(委任、後見報酬額によってはこれと異なる場合があります。)
 ② 印紙代                 2600円
 ③ 登記嘱託料               1400円
 ④ 書留郵便                約540円
 ⑤ 紙代(13枚×4-4)×250円   1万2000円
            合計       3万8540円

例・3【移行型】(枚数が13枚である場合)(出張して施設で作成した場合)
 ① 委任契約+任意後見契約       2万2000円(委任、後見報酬額によってはこれと異なる場合があります。)
 ② 病床執務加算            1万1000円(上記の0.5倍になります。)
 ③ 日当                1万円
 ④ 印紙代                 2600円 
 ⑤ 登記嘱託料               1400円
 ⑥ 書留郵便                約540円
 ⑦ 紙代(13枚×4-4)×250円   1万2000円
            合計       5万9540円

A.一例を挙げます。これら以外にも多様なバリエーションが考えられます。

【代理権目録(委任契約)】
1 不動産、動産等全ての財産の保存及び管理に関する事項 ※任意後見契約と異なり、処分に関する事項がないことに注意! 
2 銀行等の金融機関、郵便局、証券会社との全ての取引に関する事項 ※個別の銀行口座を記載して管理することもある。
3 保険契約(類似の共済契約等を含む。)に関する事項                
4 定期的な収入の受領、定期的な支出を要する費用の支払に関する事項    
5 生活費の送金、生活に必要な財産の取得に関する事項及び物品の購入その他の日常関連取引(契約の変更、解除を含む。)に関する事項 
6 医療契約、入院契約、介護契約その他の福祉サービス利用契約、福祉関係施設入退所契約に関する事項                     
7 要介護認定の申請及び認定に関する承認又は異議申立て並びに福祉関係の措置(施設入所措置を含む。)の申請及び決定に対する異議申立てに関する事項
8 シルバー資金融資制度、長期生活支援資金制度等の福祉関係融資制度の利用に関する事項
9 登記済権利証、印鑑、印鑑登録カード、住民基本台帳カード、個人番号カード、預貯金通帳、各種キャッシュカード、有価証券・その預り証、年金関係書類、土地・建物賃貸借契約書等の重要な契約書類その他重要書類の保管及び各事項の事務処理に必要な範囲内の使用に関する事項
10 居住用不動産購入、賃貸借契約並びに住居の新築・増改築に関する請負契約に関する事項
11 登記及び供託の申請、税務申告、各種証明書 の請求に関する事項
12 以上の各事項に関する一切の事項

(下記任意後見契約にはあり、委任契約には存在しない主な代理権目録)
① 財産の「処分」に関する事項(1)
② 遺産分割の協議、遺留分減殺請求、相続放棄、限定承認に関する事項(12)
③ 配偶者、子の法定後見開始の審判の申立てに関する事項(13)
④ 以上の各事項に関する行政機関への申請、行政不服申立、紛争の処理(弁護士に対する民事訴訟法第55条第2項の特別授権事項の授権を含む訴訟行為の委任、公正証書の作成嘱託を含む。)に関する事項(14)
⑤ 復代理人の選任、事務代行者の指定に関する事項(15)

【代理権目録(任意後見契約)】 
1 不動産、動産等全ての財産の保存、管理及び処分に関する事項
2 銀行等の金融機関、郵便局、証券会社との全ての取引に関する事項
3 保険契約(類似の共済契約等を含む。)に関する事項  
4 定期的な収入の受領、定期的な支出を要する費用の支払に関する事項
5 生活費の送金、生活に必要な財産の取得に関する事項及び物品の購入その他の日常関連取引(契約の変更、解除を含む。)に関する事項
6 医療契約、入院契約、介護契約その他の福祉サービス利用契約、福祉関係施設入退所契約に関する事項
7 要介護認定の申請及び認定に関する承認又は異議申立て並びに福祉関係の措置(施設入所措置を含む。)の申請及び決定に対する異議申立てに関する事項
8 シルバー資金融資制度、長期生活支援資金制度等の福祉関係融資制度の利用に関する事項
9 登記済権利証、印鑑、印鑑登録カード、住民基本台帳カード、個人番号カード、預貯金通帳、各種キャッシュカード、有価証券・その預り証、年金関係書類、土地・建物賃貸借契約書等の重要な契約書類その他重要書類の保管及び各事項の事務処理に必要な範囲内の使用に関する事項
10 居住用不動産購入、賃貸借契約並びに住居の新築・増改築に関する請負契約に関する事項
11 登記及び供託の申請、税務申告、各種証明書 の請求に関する事項 
12 遺産分割の協議、遺留分減殺請求、相続放棄、限定承認に関する事項
13 配偶者、子の法定後見開始の審判の申立てに関する事項
14 以上の各事項に関する行政機関への申請、行政不服申立、紛争の処理(弁護士に対する民事訴訟法第55条第2項の特別授権事項の授権を含む訴訟行為の委任、公正証書の作成嘱託を含む。)に関する事項
15 復代理人の選任、事務代行者の指定に関する事項
16 以上の各事項に関する一切の事項

A. 任意後見契約は優れた制度ですが、それでも以下のとおりのデメリット、注意点があります。
  ①任意後見契約は、法定後見と異なり、同意権、取消権がありません。
  ですので、本人が高額商品を買ってしまった場合、取消権を行使して無条件に売買契約を取り消すわけにはいきません。業者と交渉してキャンセルしてもらえない場合、そのまま泣き寝入りになるリスクはあります。あらかじめ、実印、印鑑カード、個人番号カード、預貯金通帳、キャッシュカードなどは任意後見人が預かっておくことが無難だと思います。
  ただし、法定後見で取消権があったとしても、加害者が無資力であった場合には被害回復は困難です。また、任意後見の場合でも、加害者側に詐欺、強迫があった場合、消費者契約法や特定商取引法の違反があった場合には取消権が行使できますので、取消権の有無が法定後見にとって、大きなアドバンテージにはならないと考えられます。

  ②親族間の任意後見契約を締結し、報酬を無償としていたとしても、任意後見監督人を選任して任意後見契約が発動した場合、任意後見監督人に対する報酬支払義務が発生します。財産額によって月額2万円から3万円くらいです。特に、任意後見人の報酬を無報酬としたケースでも任意後見監督人に対する報酬を支払わなければならないことに違和感を覚える方も多いと思います。任意後見監督人を推薦自体はできるのですが、選任は、家庭裁判所が職権で行われますので、その希望が通らないことがあります。これらは制度の本質的な事柄ですので理解していただくほかはありません。

  ③任意後見監督人選任の際、本人の不動産、金融財産の内容などかなり詳細な報告を求められます。登記情報を収集したり少し面倒と感じられる方もおられると思います。ただ、ご本人の財産管理をなさるわけですので、その概要を報告することは、今後の後見事務にとっても有用だと思います。

  ④任意後見監督人によっては、不正防止にばかり力点をおいてしまい、本人の自己決定権の尊重を疎かにする運用をされるリスクがあります。本人が好きだったことを任意後見監督人に十分に説明して理解を求める必要があります。

任意後見制度と家族信託の長短

上記の欠点について、家族信託ではどうなるでしょうか?
① 家族信託契約でも本人(委託者)のした行為についての取消権はありません。しかし、本人の財産は、受託者の名義になっていますので、信託財産は被害にあうことがありません。被害にあう可能性があるのは、本人(委託者)に残された固有財産です。信託契約によって被害を最小化することができます。
② 信託契約では、監督人を置くことが義務ではありませんので、報酬支払が発生するかどうかは、信託契約の設計をどのようにするかによります。受託者の暴走が心配であるのであれば、士業者を信託監督人に選任しておくことが有益です。この場合は、契約による報酬支払義務が発生します。
③ 信託契約では、報告内容も信託契約によって定められます。その内容は、契約によるので、委託者と受託者で取り決めることができます。硬直的な報告を求められる訳ではありません。
④ 信託契約は、本人の自己決定権が最大限尊重され得る制度です。第三者の介入を最小化できます。そのためには、委託者と受託者の信頼関係が一番大切です。
⑤ 信託契約では、信託の設計やスキーム作りが大切です。そのため、専門家に支払う費用は、任意後見契約よりもはるかに高額になります。

A. 可能です。ただし、法定後見が開始している場合、ご本人の判断能力が失われていることが通常の状態ですので、そうでない状態、すなわち、任意後見契約の締結時に判断能力があり、かつ、その状態を証明できなければなりません。そうすると、医師により本人が正常な判断能力があるとの診断書をとり、できれば医師の立会いのもとで任意後見契約を締結することが無難だと思います。
  法定後見の申立てをした場合、申立ての取下げが制限され、法定後見人が気に入らなかったとしても不服申立てはできませんので、この場合の救済方法として、任意後見契約は一つの方法ではあります。
  もっとも、本人又は本人の周囲にいる方の主観的な嫌悪感だけで法定後見人を変えてほしいと希望される場合があります。その場合は、本人と法定後見人との間の不信感を取り除く措置が必要になります。どうしても信頼関係が築けない場合で、上記のとおり本人の判断能力が残されていることが認められるときに任意後見契約の締結、即効型による発動によって、本人が選任した任意後見人に介護や財産管理をしてもらうことができます。

  

A. 死後事務委任契約は、自分の死後の事務、例えば、死後連絡する人、入院費用等の支払、葬儀のこと、葬儀に呼ぶ人のこと、墓地のことなどを第三者に委任する契約のことです。任意後見契約は、本人の死亡によって契約関係が切れてしまいます。任意後見契約の時的限界です。死後のことは別の契約による必要があります。本人の死亡によって契約が発動します(本人の相続人と受任者との契約になります。)。遺言の中に書いておくこともできますが、発見されないこともあるため、第三者との間でしっかりした契約を結ぶことで確実に履行してもらえます。これを公正証書で作成することによって、高い信用力が得られます。相続人間で、どのような形式で葬儀をするかなど遺された人を悩ませません。

  死後事務委任契約の具体的な内容としては、①遺体の引き取り、安置場所、②葬儀社、埋葬方法、納骨場所、永代供養の方法、③家族、親族、その他関係者への連絡の有無、時期、④自宅(賃貸物件)の退去、明渡し、敷金の精算の依頼、⑤遺品の整理、処分方法、⑥生前発生した未払入院費、入所費用の清算、⑦相続人、利害関係者への遺品、相続財産の引継ぎなどの事務作業が考えられます。特に、身寄りのない方については有用な契約といえますし、身寄りのある方にとっても、死後、残された方々の判断を煩わせないように、跡を濁さないための契約といえます。

  尊厳死宣言。「私たちの最期は美しく人間らしく尊厳をもって迎えたいものです。」と言いたいのですが、医療側としても、本人や家族の明確な意思表明がない限り、本人に無用の苦しみを与える延命治療であっても、最善の医療を提供しようとします。もちろん、最後まで闘うことが美しいと考える方もいらっしゃると思います。それが周囲に感銘を与えることもあるでしょう。

  しかし、最期は、意味のない医療行為によるのではなく愛する者とに見守られながら静かに旅立ちたいと考える方もおられると思います。どれが美しい旅立ちであるのかは、正に自分が決めることではないでしょうか。「幸せであるかどうかを決めるのは、他のだれでもない!私自身が決める❗」️です。
  しかし、実際問題として、その人の真意を誰が決めるのか、どのようにして真意を推し量るのかは難しい問題です。現在のところ、公正証書によって「尊厳死宣言」をするのが最も良い方法であると考えられます。法務大臣から任命を受けた特殊な公務員である公証人が、嘱託人の意向、真意を確かめて、これを公正証書にして公証役場に保管します。

  尊厳死宣言には、医療の最善を尽くしても避けられない死が迫った場合に、これ以上の医療行為をしないでほしいこと、ただし、苦痛を取り除く行為は最大限実施してほしいこと、そのために生存時間が短くなっても異議がないこと、このことは本人の真意であること、医療関係者は本人の意向を最大限尊重してほしいこと、捜査関係者は、医療関係者を捜査の対象にしないでほしいこと、この意向に沿って行動してくれた方々に深い感謝をすることが記載されています。事実実験公正証書にも尊厳死宣言が載っていますので、そちらもご覧ください。

A.信託契約は、委託者と受託者が契約締結しますが、締結後、委託者の判断能力が失われた場合であっても、「委託者の財産」を受託者が管理・運用することができます。正確には、信託契約によって、委託者の財産は、受託者に移転されます。そして、信託財産の賃料や居住権などの受益権は受益者(多くの場合委託者)が受け取ります。例えていうと、クリスマスケーキの外箱は受託者に移り、受託者の名義になりますが、ケーキ本体は、委託者兼受益者のものですので、受託者がそのケーキを切り分けて、少しずつ委託者兼受益者のもとに届けるというイメージです。
  このように、財産管理について信託契約は威力を発揮しますが、入院契約や介護契約など身上介護・身上監護については、信託契約はフォローできません。身上介護・身上監護に関する任意後見契約を締結することはとても大切なことです。