債務弁済契約
A.金銭消費貸借契約とは、お金の貸し借りをその場で行う契約です。現金を相手方に交付し(消費貸借契約の要物性)、その返還(これに利息を付することが多い。)を約束する契約です。
債務弁済契約は、お金の貸し借りは既に行われており、その債務(お金を返す義務)をどのようにして履行(実行)するか、履行できなかった場合のペナルティを定める契約です。貸し手にとっては安心感を、借り手にとっては信用を付する契約といっていいと思います。
A.一例をお示しします。
平 成29年 第〇〇 号
債務弁済契約公正証書
本公証人は、平成29年○月○日、当事者の嘱託により、標記の契約に関する陳述の趣旨を録取し、この証書を作成する。
第1条(債務の承認等)
債務者・○○○○(以下「乙」という。)は、 平成○○年○月○日付の金銭消費貸借契約に基づく借 受 金〇○○万円を以下の条項に従っ 弁済することを約し、債権者・○○○○(以下「甲」という。)はこれを承諾した
。
第 2 条(弁済の約束)
1 乙は甲に対し、元金(金〇〇〇万円)は平成○○年○月から平成○○年○月まで12回に分割し、毎月末日限り金○〇万円ずつ甲の指定する口座に送金して支払う。振込手数料は甲の負担とする。
2 利息は年利5%と定め、毎月末日限りその月分を支払う 。
3 乙は、期限後又は期限の利益を失ったときは、甲に対し、以後完済に至るまで年10%の割合による遅延損害金を支払う。
4 次の場 合には、乙は、甲からの通知催告がなくとも当然期限の利益を失い、直ちに元利金を完済する。
(1) 割賦金又は支払うべき利息を期限に支払わないとき 。
(2)他の債務につき強制執行(仮差押えを含む。)を受けたとき 。
(3)他の債務につき競売、破産手続又は民事再生手続の申立てがあったとき。
(4)乙が甲に通知せずにその住所を変更したとき。
第 3 条 (連帯保証)
連帯保証人・ 〇〇〇〇(以下「丙」という。)は、本契約による債務者の債務を連帯して保証し、乙と連帯して債務を履行する。
第 4 条(強制執行の認諾)
乙及び丙は、本契約による金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。
本旨外要件
○○県○○市○○〇丁目〇番〇号
会社員
債権者(甲) 〇〇〇〇
昭和〇〇年〇月〇月生
甲は、運転免許証を提示して、人違いでないことを証明した。
○○県○○市○○〇丁目〇番〇号
無職
債務者(乙) 〇〇〇〇
昭和〇〇年〇月〇月生
○○県○○市○○〇丁目〇番〇号
自営業
連帯保証人(丙)〇〇〇〇
昭和〇〇年〇月〇月生
○○県○○市○○〇丁目〇番〇号
パート従業員
乙兼丙代理人 〇〇〇〇
平成〇年〇月〇日生
乙兼丙代理人は、運転免許証を提示して人違いでないことを証明した。乙兼丙代理人が提出した委任状は、乙及び丙の印鑑証明書を提示してその真正を証明させた。
A.債務弁済契約は、お金の貸し借り(金銭消費貸借契約)だけではなく不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償金の弁済契約にも用いられています。
例えば、① 自転車事故によって相手に負傷させてしまった場合、その損害賠償金を分割払にすることを合意した、② 不貞行為(不倫)による損害賠償金を分割払にした、③
請負契約代金を期限に一括払できない場合に、期限を猶予してもらったり、分割払をする場合などに用いられます。
債務弁済契約公正証書の作成によって債務者にとっては「信用力」を上げることができますし、債権者にとっては債務名義(強制執行をすることができる文書)を得ることになり「安心」を得ることになります。
これらの債務名義は、判決や調停手続でも得ることができますが、裁判所の敷居が高いとお考えの方も多いですし、公証役場では、裁判所の手続よりも短期間で債務名義を取得することができます。ただし、公証役場で債務弁済契約を作成される場合には、債権者と債務者との合意ができていることが前提になります。争いがある場合は、裁判所での調停手続又は判決手続のご利用をお願いします。
A.ここでは、注意点を3点指摘しておきます。それは、①給付文言、②期限の利益喪失文言、③強制執行認諾文言です。
① 給付文言
債務弁済契約公正証書を作成するのは、債権者に債務名義(強制執行をすることができる文書)を与える目的であることが多いと思われます。債務名義文書とするためには、「金銭給付文言」を入れる必要があります。
金銭給付文言は、「支払う。」と言い切る必要があります。「支払うことを約束する。」という文言は、給付文言にはなりません(支払うことの確認文言です。)ので、債務名義としては不適格です。「支払うものとする。」という文言も給付文言と解釈されないリスクが高いと思われます。
金銭給付文言の場合、金額は確定していなければなりません。例えば、「大学入学時の入学金を支払う」「交通事故の治療費を支払う」という文言は金額が特定していませんので、執行力を持つ給付文言とはいえないことになります。
また、支払時期も明確である必要があります。「平成〇〇年〇月末日」は期限として明確です。しかし、「子どもが小学校を卒業するとき」というのは時期が不明確です(第三者である裁判所が明確に理解できる必要があります。小学校を卒業するのは3月31日とは限りません。)
②期限の利益喪失文言
分割払の場合は、期限の利益喪失文言を入れておくと、分割払を怠った場合に債務者側の期限の利益を失わせることができます。期限の利益の喪失とは、債務者が残額を一括して即時に支払わなければならなくなる状態をいいます。100万円を10万円ずつ毎月支払うという約定の債務弁済契約の場合、期限の利益喪失約款が定められていれば、10か月後を待たずにすぐに一括弁済を求めることができます。
期限の利益を喪失させる場合は、①債権者の意思表示による場合と②当然に喪失させる場合がありますが、②による場合が多いようです。
期限の利益喪失文言の例として、
・分割金の支払を怠り、その額が金10万円に達したとき
・他の債務につき、仮差押え、仮処分又は強制執行を受けたとき
・乙について破産申立て、民事再生手続申立てがあったとき
・乙が甲に無断で住所を変更したとき(所在不明になったとき)
③強制執行認諾文言
「乙及び丙は、本契約に係る金銭債務の支払を怠ったときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した」など強制執行に服する旨を記載しておく必要があります。強制執行認諾文言がないと、その公正証書では強制執行ができません。
A.本人が公証役場に来られる場合と、代理人が公証役場に来られる場合とで必要書類が異なります。個人(自然人といいます。)の場合と法人の場合でも異なります。
【本人が公証役場に来られる場合】
本人確認書類(自動車運転免許証、パスポート、個人番号カード(マイナンバーカード)、住基カードなど顔写真付きの公的証明書+認め印。これらがない場合は、印鑑登録証明書+実印)になります。なお、債権・債務が存在している裏付資料の提示をお願いすることもあります。
【本人が法人である場合】
法人の資格証明書(法人の商業登記簿謄本又は代表者事項証明書)、法人印鑑証明書、法人実印が必要です。
【代理人が公証役場に来られる場合】
代理人の本人確認書類(自動車運転免許証、パスポート、個人番号カード/マイナンバーカード、住基カードなど顔写真付きの公的証明書+認め印。これらがない場合は、印鑑東特証明書+実印。これらに加えて本人の委任状が必要になります。委任状に押捺する印鑑は、本人の実印であり、また本人の印鑑登録証明書を添付することが必要になります。委任状には、委任事項を記載しなければなりませんが、委任状に債務弁済公正証書の案文を添付する方法が無難です。添付の方法には、割印による場合と袋とじによる場合があります。詳しくは、委任状の作成をお読みください。
【本人が法人である場合】
代理人の本人確認書類(自動車運転免許証、パスポート、個人番号カード/マイナンバーカード、住基カードなど顔写真付きの公的証明書。これらがない場合は、印鑑登録証明書+実印)に加えて、法人の資格証明書(法人の商業登記簿謄本又は代表者事項証明書)、法人印鑑証明書に加えて、、法人実印が必要です。法人代表者からの委任状が必要になります。委任状に押捺する印鑑は、本人の実印であり、また本人の印鑑登録証明書を添付することが必要になります。委任状には、委任事項を記載しなければなりませんが、委任状に債務弁済公正証書の案文を添付する方法が無難です。
A.経済的利益の金額になります。
例えば、100万円の債務を弁済する契約ですと、債権者にとって100万円の経済的価値がありますので、公正証書作成手数料は100万円以下の手数料5000円に、紙代(仮に、5枚ですと、5枚×3種類の公正証書-原本4枚分=11枚分の紙代です。1枚250円ですので、2750円。交付送達手数料1650円。印紙代200円の合計9600円です。
1000万円の債務弁済契約の場合、公正証書作成手数料は1000万円以下の手数料17000円+2750円(5枚の場合)+1650円+200円ですので、2万1600円です。5000万円の債務弁済契約(5枚の場合)は、同様に29000円+2750円+1650円+200円で3万3600円になります。
実際には、紙代が増減するなど手数料は変動しますので、上記の作成費用は、あくまで目安とお考えください。現実には、案文を作成してみないと、正確な手数料が計算できません。